基本合意書とは?ブレークアップ・フィーの例文も解説|弁護士監修

基本合意書(Memorandum of Understanding, MOU)は、企業間で締結される初期の合意文書であり、最終契約に至る前の一定時点で、取引当事者間の共通認識を確認するために作成されます。この文書は、今後の契約交渉を進めるための出発点となるものであり、最終合意に至るための途中の重要なステップです。基本合意書は、M&A(企業の合併・買収)をはじめ、ライセンス契約共同開発契約業務提携契約など、さまざまなビジネスシーンで利用されます。本記事では、基本合意書の概要とその活用事例、さらに法的拘束力を持つ条項や最終契約拒否のリスクとその対策について、リーガルチェックポイントを交えて、契約書自動チェックサービス”CollaboTips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。

目次

基本合意書の概要

1     基本合意書の主な目的

基本合意書(Memorandum of Understanding, MOU)は、最終契約に至る前の一定時点で、主に以下の目的で締結されます。

  • 取引の枠組みを確認: 合意書は、当事者間で取引の基本的な枠組みを明確にするために使用されます。これにより、最終契約締結に向けての調整が円滑に進むだけでなく、両者の誤解や後のトラブルを防ぐ効果もあります。
  • 期限やスケジュールを確認: 契約締結に向けた期間を確保し、必要な手続きやスケジュールを明確にすることも目的の一つです。
  • 交渉の誠実性を確保: 基本合意書を交わすことにより、双方が合意内容を守る意向を示すことができ、交渉の進展が保証される場合があります。

2    使用される場面

基本合意書は、以下のようなさまざまなビジネス取引においても利用されます。

  • M&A(企業の合併・買収): 企業間での合併や買収において、買い手と売り手の合意形成を図り、取引の基本的な枠組みを確認するために使用されます。
  • 技術ライセンス契約: 知的財産(技術や特許)のライセンス契約において、ライセンサーとライセンシー間で合意されるべき基本的な条件や範囲を確認します。
  • 技術提携(共同開発契約): 複数の企業が共同で新技術や新製品の開発を行う場合、役割分担やリスク分配について事前に合意を形成します。
  • 業務提携契約(販売契約・供給契約): 商業取引の開始にあたり、販売条件や供給条件など、取引の枠組みを確認し、両者の合意に基づいて交渉を進めます。

基本合意書における法的拘束力

基本合意書は、あくまで交渉段階での合意を示すものであり、必ずしもすべての条項に法的拘束力があるわけではありません。しかし、いくつかの重要な条項には法的拘束力を付与することがあります。以下は、法的拘束力が生じる可能性のある主な条項です。

1    秘密保持義務

営業秘密技術情報が関わる場合、秘密保持義務を盛り込むことが重要です。この条項は、交渉中やデューデリジェンス中に提供される機密情報が外部に漏れないようにするため、法的に拘束力のある内容として記載されます。

特に、最終合意に至らない場合、交渉中やデューデリジェンス過程で提供された営業秘密技術情報の漏洩がリスクとして顕在化します。営業秘密技術情報は一度流出すると、その後に流出先から情報を完全に消滅させることは非常に困難です。そのため、情報提供者は競争優位性を失う危険性があります。このような事態を防ぐためには、交渉中に提供された機密情報を厳密に保護する義務を基本合意書に明記しておくことが非常に重要です。また、最終合意に至らない限り、核心の営業秘密技術情報は絶対に開示しないという秘密管理が重要です。

2    独占交渉権(独占交渉義務)

買い手が一定期間内に独占的に交渉を進める権利を得るため、独占交渉権を基本合意書に盛り込むことが多いです。この条項は、買い手が他の買い手と競争せずに交渉を進めるために必要です。独占交渉義務の拘束力が問題となった事案として、住友信託銀行対UFJホールディングス事件(最高裁平成16年8月30日判決、東京地裁平成18年2月13日判決)があります。この事件で、最高裁は、独占交渉義務が基本合意書において法的効力を持ち得ることを認めつつも、交渉の強制力を直接的に行使することには限界があることを示唆しています。この場合、義務違反については損害賠償で償われることになりますが、損害賠償の範囲は明確ではありません

3    最終契約を締結する義務(拘束力が無いことが多い)

上記1の秘密保持義務や上記2の独占交渉義務等は別として、基本合意書においては、最終契約を締結する義務を負わないという意味において基本的合意書は法的拘束力を持たないとされることが一般的です。最終合意を期待した当事者が損害を被る恐れがあります。そのため、最終合意に至らない場合の損失補填について事前に検討しておくことが良いでしょう。

独占交渉義務違反や最終契約拒否のリスクとその対策

基本合意書の後、最終契約を締結しない、または拒否されることは、取引当事者にとって重大なリスクとなります。最終契約が締結されない場合のリスクと、それに対する対策について、契約を拒否する側と拒否される側のそれぞれの立場から解説します。

1    契約拒否される側(主に売り手側)のリスクと対策

契約を拒否される側、特に売主、供給者、ライセンサー(売り手側)にとっては、最終契約が結ばれない場合、以下のようなリスクが考えられます。

  • 時間とリソースの浪費: 交渉を進め、デューデリジェンスを実施した後で最終契約を拒否されると、売り手側は多くの時間やリソースを無駄にしてしまうことになります。
  • 他の取引機会の喪失: 取引が成立しないことにより、売り手側は他の潜在的な取引相手を逃す可能性が高まります。この機会喪失は、将来的な収益を大きく減少させる恐れがあります。
  • 機密情報漏洩リスク:最終合意に至らない時に、交渉中やデューデリジェンス中に開示した機密情報について不正利用や流出のリスクが高まります。

対策

  • 契約拒否時の違約金条項: 基本合意書において、契約拒否に伴う損害賠償責任を盛り込むことにより、契約が拒否された場合に法的な措置を取ることができます。
  • 前受金(デポジット)の受領: 最終契約を締結する前に、前受金を受け取ることで、契約が拒否されても一定の資金を確保できます。
  • 核心的な営業秘密の不開示:交渉中やデューデリジェンス中に、自社の核心的な情報を相手方に開示しないように秘密管理を徹底する必要があります。

買い手側に違約金を課すサンプル条項:

第〇条(ブレークアップ・フィー)
1 本合意書締結後に最終契約が完了しない場合、その理由に関わらず、買い手側は、売り手側に対して、取引予定対価の〇〇%(〇〇円)(以下「ブレークアップフィー」という)を支払うものとする。
2 前項に定めるブレークアップフィーは、本契約が終了または解約された日から〇〇日以内に、売り手側が指定する口座に振込む方法で支払われるものとする。
3.前各項に関わらず、次のいずれかの事由が発生した場合には、買い手側はブレークアップフィーを支払う義務を免れるものとする。
(i) 買い手側によるブレークアップ・フィーの支払義務を免除することを両当事者が書面により合意した場合
(ii) 売り手側が本契約に違反し、かつその違反が本取引の不成立に重大な影響を与えた場合
(iii) 売り手側が必要な法的承認を得ることができなかった場合

上記例文では、原則として、契約終了原因を問わず、最終合意に至らない場合には、買い手側がブレークアップ・フィーを支払う義務があります(1項)。例外的に、売り手側が書面で合意した場合(3項1号)や売り手側に帰責性がある場合(3項2号、3号)には、ブレークアップ・フィーの支払いが免除されます。

米国では、ブレークアップフィーは取引金額の1~5%程度といわれることがありますが、国内においては未だ相場観もないため、取引金額が小さい場合などには料率を増加させることもあると考えられます。

2    契約拒否する側(主に買い手側)のリスクと対策

契約拒否する側、特に買主、受給者、ライセンシー(買い手側)にとっては、最終契約を拒否した場合、以下のようなリスクがあります。

  • デューデリジェンスにかかるコストの損失: デューデリジェンスや事前調査に多大なコストと時間をかけたにもかかわらず、最終契約が締結されないと、これらの費用が無駄になります。
  • 法的リスク: 基本合意書に誠実交渉義務が含まれている場合、契約拒否が法的違反と見なされることがあります。
  • 信用の低下: 契約拒否によって、売り手側からの信頼を失う恐れがあり、今後の取引に悪影響を与える可能性があります。

対策

  • 法的拘束力の不存在の明記:買い手側は、基本合意書に法的拘束力がないことを明記しておくことが考えられます。
  • 解除条項の設置: 買い手側は、基本合意書に解除条項を設け、事前の調査で重大な問題が発覚した場合に契約を解除できるようにします。これにより、無理に契約を締結するリスクを避けることができます。

法的拘束力の否認のサンプル条項:

第〇条(法的拘束力)
本基本合意書の定めは、〔第〇条、第〇条を除き、※〕当事者間の取引に関する基本的了解事項として、両当事者間で今後の協議で考慮すべき事項を記載したものであって、何ら法的拘束力を有しないものとする。

※カッコ〔 〕内は、秘密保持義務や独占交渉義務等の法的拘束力を有する条項が基本合意書に定められている場合に、その条項の番号を記載します。

意向表明書や最終合意書との違い

最終合意書の締結前に使用される文書として、意向表明書(Letter Of Intent, LOI)と呼ばれるものがあります。意向表明書は、具体的な交渉に入る前において、一方の当事者が交渉の意向や方向性を示すために差し入れる文書です。意向表明書(LOI)は、取引の基本的な枠組みを明確にし、双方がこれから交渉を進めるための基盤を作るという点では基本合意書(MOU)と共通する面がありますが、非拘束的であることが一般的です。一方的に交渉を破棄すると過失責任(不法行為)を問われる可能性はありますが、意向表明書(LOI)自体には法的効力は薄く、交渉のスタートラインに過ぎません。以下の比較表を見て、それぞれの違いを理解しておきましょう。

特徴/文書意向表明書(LOI)基本合意書(MOU)最終合意書(契約書)
目的取引の意向や方向性を示す基本的な合意内容を確認し、合意の形成を図る最終的な合意内容を正式に文書化(証拠化)
作成タイミング交渉の出発点交渉を実施した後詳細な条件を合意した後
署名・捺印一方の当事者が差し入れ両当事者が署名捺印両当事者が署名捺印
法的拘束力非拘束的(但し、一方的な交渉破棄はリスクあり)一部に拘束力あり(例:守秘義務、独占交渉義務)全部に法的拘束力あり
詳細度概要のみ基本的な枠組みすべての詳細な条項

まとめ

基本合意書は、M&Aやライセンス契約、共同開発契約、業務提携など、さまざまなビジネス取引において重要な役割を果たします。この文書は、取引条件や主要な合意内容を確認し、最終契約に向けての土台を作るものです。ただし、最終契約が締結されないリスクが存在するため、そのリスクを管理するための適切な対策(例えば、秘密保持義務や独占交渉権、解除条項など)を盛り込むことが重要です。

取引当事者は、基本合意書におけるリーガルチェックポイントをしっかり確認し、最終契約に至るまでの流れを慎重に進めることが求められます。

コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所

メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。 

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