【販売店契約書】確認したいリーガルチェックポイント9点とは|弁護士監修

販売店契約は、メーカーやサービス提供事業者が、自社の製品やサービスを第三者に販売する際、その販売ノウハウ等を有する者との間で販売提携を行い、商品を効率的に販売してもらうために締結される契約です。似た契約に「代理店契約」もあります。本記事では「販売店契約」について、「代理店契約」との違いを説明したうえで、販売店契約書におけるリーガルチェックポイントについて、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。

目次

販売店と代理店の違い

販売店と代理店は、似ているようで異なる法的立場を持ちます。

  • 販売店: 販売店は、製品を仕入れて第三者に販売(転売)する立場です。転売した差額が利益となります。
  • 代理店: 代理店は、メーカー(または供給者)の代理として製品を販売しますが、代理店自身が製品を所有することはなく、販売契約の締結は代理店ではなく元の企業が行います。

販売店は製品の在庫リスクを負うのに対して、代理店は在庫を持ちません。両社の違いを図にすると以下のようになります。



販売店契約では、販売を受託する者が「販売店」と「代理店」のどちらであるかにより、在庫リスクの有無などに違いがあるため、最初にどちらの契約形態であるのかを確認することが重要です。次のサンプル条項も参考にして「販売店」か「代理店」かをチェックするようにしましょう。

販売店(非独占)の例:

第1条(販売権の付与)  
甲(メーカー)は、本契約の有効期間中、本商品の非独占的な販売権を乙(販売店)に付与し、乙はこれを受諾する。甲は、乙以外の第三者に対し、本商品の販売権を付与することができる。また、甲は、本契約の有効期間中、乙の事前の書面による承諾なくして本商品を自らも販売することができる。

代理店に指名する例:

第〇条(代理店の指定、対象商品及び地域)
1 委託者は受託者に対し、以下に定める業務(以下「本件業務」という。)を委託し、受託者はこれを受託する。
(1)日本国内外における、本件製品に関する、商品の説明、助言等
(2)日本国内外における、本件製品購入先の仲介等

独占販売権の付与の有無

販売店に対して独占的な販売権を付与する場合、販売店だけが一定の地域や市場で製品を販売できるようになります。独占権の有無により、販売店の市場競争環境が大きく変わります。

独占販売権を付与する例:

第1条(独占販売権)
甲(メーカー)は、本契約の有効期間中、本商品の〇〇の地域(以下「テリトリー」という)における独占販売権を乙(販売店)に付与し、乙はこれを受諾する。甲は、乙以外の第三者に対し、本商品のテリトリーにおける販売権を付与しない。また、甲は、本契約の有効期間中、乙の事前の書面による承諾なくして本商品を自らもテリトリーでは販売しない。

最低購入数量義務

販売店が一定の数量を購入しなければならないという義務が設けられることがあります。特に、販売店に対して独占販売権を付与する場合、販売店の販売実績が不振でも、メーカーは、テリトリーでは他に顧客に販売するルートが無くなります。そのため、独占販売権の付与に伴い、販売店には一定の販売義務や最低購入義務を課すことがあります。そして、最低購入義務を達成できなかった場合には、契約解除やペナルティを課すなどの措置が必要となります。独占権を持つ販売店が期待通りに営業しない場合でも、契約解除や他の業者への切り替えが難しくなることを避けるために、購入義務をしっかりと設定することが重要です。

サンプル条項:

第〇条(最低購入数量等)
1 販売店は、本契約締結日から1年の間において、本製品を〇ロットに達するまで購入しなければならない。1ロット当たりの数量は、別途当事者間で協議の上書面により決定するものとする。
2 前項にかかわらず、第〇条第〇項に従って、本契約を更新する場合、その都度、当事者は、協議のうえ、年間発注目標数量を設定するものとする。
3 本条第1項に定める最小発注数量及び本条第2項に定める、当事者が合意した年間発注目標数量を2年連続して達成できなかった場合、または年間発注目標数量の合意ができない場合は、当事者は通知をもって本契約を解除することができる。

個別契約(販売店の注文手続)

販売店契約は、実質的には売買基本契約に近い性質があります。販売店契約書を締結した後、個々の売買取引の方法は、以下の2パターンがあります

  • パターン1: 販売店契約書 + 発注書 + 請書
  • パターン2: 販売店契約書 + 個別契約書
パターン1

 パターン2
    

パターン1では発注書に商品名、数量、価格、納入時期などの重要事項が記載されます。そして、「発注書」と「請書」により成立する個々の売買取引を、「個別契約」と呼びます。パターン1のときに、メーカーやサービス提供事業者が「請書」を出さない場合に備え、一定の期間内に連絡がない場合は請書が出されたものとみなす旨を定めることが重要です。

サンプル条項

第〇条(個別契約)
1 本製品の個別売買契約は、販売店が、メーカーに発注数量、引渡期限、引渡場所、引渡方法、代金の支払条件、支払期日等を記載した注文書を発行して本製品の購入申込みをし(以下、「購入申込み」という。)、メーカーが注文書の受領後7日以内にこれを承諾することによって成立する。
2 メーカーは本契約の有効期間中であっても、本製品の全部または一部の販売を中止し、あるいはその構成・仕様を変更することができる。
3 メーカーは本契約に定める場合を除き、いかなる理由であっても販売店に対し既に販売した本製品を変更、あるいは再購入する義務を負わない。

なお、商品売買基本契約の場合と同じように、基本契約となる販売店契約書と個別契約書との内容が食い違った場合に、どちらの書面が優先するのかも明確にしておくことが望ましいです。

個別の受発注後の商品の取り扱い

販売店契約締結後に、販売店は、メーカー(または供給者)から繰り返し商品を購入することになる。この個別の受発注時においては、商品売買基本契約と同様に次の条項に注意が必要です。

  • 納品方法や検収方法: 製品が納品される際の方法や、検収の手続きについて規定します。納品後、販売店が製品の受け取りや検収を行うタイミングも明確にしておくことが重要です。
  • 納品後の契約不適合責任: 製品に不具合があった場合、どのように対応するかを規定します。納品された製品が契約条件に適合しない場合、メーカー(または供給者)が取るべき対応やその期間(いわゆるメーカー保証期間)を明確にしておくことが必要です。
  • 製造物責任: 製品が原因で顧客に損害を与えた場合の責任を定めます。製造物責任については、メーカー(または供給者)の責任を規定する条項が含まれます。

改良品の販売権

新たに改良された製品に対して販売店が販売権を有するかどうかを規定します。

改良品を本商品に含めることの協議条項の例:

第〇条(改良品の販売権)
1 メーカーは,本商品の改良品を開発した場合,販売店に対して当該改良品の情報を速やかに書面により通知しなければならない。
2 販売店は,当該改良品を本商品に含めることを希望する場合,メーカーに対し,前項の書面を受領した日の翌日から○営業日以内にその旨を書面により通知する。かかる通知を受け,両当事者は,協議の上,当該改良品を本商品に含めることができる。

競合品の取り扱い

販売店が競合する製品を扱うことに関して規定し、競争を制限する場合もあります。

第〇条(競合品の取扱い)
販売店は、本契約期間中であると本契約終了後であるとを問わず、ベンダと同種の事業を営まず、 自ら又は第三者をして、本業務と同種、類似又は競合するいかなる業務も第三者から受託してはならないものとする。

顧客からのクレーム対応

販売店契約において、販売店はメーカーから商品を購入し、それを顧客に転売するため、顧客からのクレームや苦情は基本的に販売店の責任で対応することになります。そのため、通常は、販売店が自己の顧客に対してサポートを提供し、問題を解決する義務を負います。もし、クレームがメーカーに起因する場合でも、販売店は自ら対応し、必要に応じてメーカーに通知する形になります。

第〇条(サポート対応、苦情対応)
本業務が第三者の権利を侵害するものとしてベンダがなんらかの苦情の申立または請求を受けた場合は、当該苦情の申立または請求が販売店の責めに帰すべき事由によるときは、販売店はその費用と責任において、これを処理・解決するものとし、ベンダに迷惑を及ぼさない。​

商標の取り扱い

販売店が製品の商標を使用する権利に関して、事前に契約で定めることが重要です。特に、販売店がメーカーに無断で対象商品に別のブランド名やロゴを付されると、メーカーの正規のブランド名やロゴの価値が希釈化したり(薄まったり)、当該別のブランド名やロゴを販売店が無断で商標登録するリスクがあります。そこで、そのようなことを禁止することを契約書に盛り込むことがあります。

ベンダの指定する方法で、本製品の商標の使用を義務付ける例:

第〇条(商標の使用許諾)
販売店は、再提供契約の履行にあたり、メーカーの指定する方法にて、本商品の名称及び商標を使用しなければならない。また、販売店は、本件商標の全部若しくは一部を改変してはならず、本件商標と類似する標章の商標登録出願をしてはならず、又は本件商標の信用を損なうような方法で使用してはならない。

有効期間

販売店は、メーカーから仕入れた商品を販売するために、当該商品販売のために営業や宣伝広告などの相当の先行投資を行うことがある。そのため、販売店としては、販売店契約の契約期間が短期で終了することには大きなリスクがある。しかし、継続的取引では、契約期間や更新の有無が不明確な場合、一方的に取引を打ち切られるリスクがあります。また、メーカー(または供給者)としても、契約を終了させるためには、やむを得ない事情(正当事由)が必要になる場合や金銭的な補償が必要になる場合がある。そのため、契約期間や更新の有無を契約書で明確にしておくことが望ましいです。

1 本契約の有効期間は、○○年○月○日から○年〇月〇日までとする。ただし、期間満了の〇日前までに、いずれかの当事者が合理的な理由に基づき更新しない旨を書面等で通知しない限り、本契約は、同一の条件で〇年間自動的に更新されるものとし、その後も同様とする。

まとめ

以上、販売店契約書のリーガルチェックポイントを解説しました。契約書を作成・締結する際には、これらの項目を十分に確認し、双方の権利・義務を明確にすることが大切です。

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コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所

メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。 

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