【契約書ひな形あり】フリーランス新法施行に伴う基本契約と個別契約の解説|弁護士監修

2024年11月1日に施行された「フリーランス新法」により、フリーランスとの業務委託契約において、契約内容の明確化や書面化が義務づけられました。これに伴い、「自営型テレワーク」の業務委託契約書には、発注者とフリーランス(自営型テレワーカー)の間で合意すべき事項がいくつか新たに追加されました。本記事では、新法の施行を受けて、厚生労働省が改定した「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」(自営型テレワークガイドライン)の「ライター業務」の業務委託契約書の参考例に基づいて、その基本契約書と発注書(個別契約)のひな形の重要ポイント5点について、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。

目次

「ライター業務」の業務委託契約書(ひな形)

基本契約のひな形(ダウンロードは、こちら

業務委託契約書

株式会社○○(注:注文者を記入)を甲とし、■■(注:自営型テレワーカーを記入)を乙として、甲の業務の委託に関して、次の通り契約を締結する。
本契約に定めのない事項又は本契約の内容等に疑義が生じた場合には、その都度、民法をはじめとする法令等を踏まえ、誠意をもって甲乙協議の上、取り決めるものとする

(委託業務)                          ※ポイント1:委託内容に注意!
第1条 甲は、乙に△△△に関する業務(以下「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受託し、本件業務の目的を理解して誠実に業務を遂行する。
(契約期間)
第2条 甲が本件業務を乙に委託する期間は、令和○年○月○日から令和○年○月○日までとする。
(基本契約及び個別契約)
第3条 甲と乙との間における本件業務に関する個別の契約(以下「個別契約」という。)は、甲から、本件業務に関する具体的な委託内容、契約金額、成果物の納期、その他具体的事項が記載された発注書が発行され、乙から当該発注書に対して承諾された場合において、当該発注書の内容に従い成立する。
2 本契約に定める諸条項は、本契約の有効期間中、甲が本件業務を継続的に乙に委託するにあたり、甲乙間で締結される個別契約に共通して適用されるものとする。個別契約で本契約と異なる規定を定めた場合は、個別契約の定めが本契約に優先するものとする。
(契約の解除)
第4条 甲又は乙は、相手方が次の各号の一つに該当するときは、契約の全部又は一部を解除することができるものとする。なお、当該解除は相手方に対する損害賠償の請求を妨げないものとする。
① 相手方が契約に基づく債務を履行せず、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず当該期間内に債務の履行をしないとき。
② 相手方の責に帰すべき事由により、個別契約に定める納期を遵守することができないと認められるとき。
                                ※ポイント2:途中変更に注意!
2 甲と乙が合意により契約を解除する場合、甲は、乙に対し、当該成果物の完成割合及びその時点において有する機能等をもとに甲及び乙が誠実に協議し、その分の報酬を支払う。
3 災害などの甲の責めに帰すべき事由以外の事由で契約が解除される場合に生じた負担は、甲乙協議の上、決定するものとする。
(報酬等)
第5条 本件業務に関する報酬額は、○字あたり○円(税込)とする。なお、個別契約に定める報酬額が本契約書に定める報酬額より高い場合は、発注書の定めによるものとする。  ※ポイント3:報酬等に注意!
2 交通費、通信費等諸経費の取扱いについては、甲乙協議の上、決定する。 
(報酬の支払方法)
第6条 甲は、乙から各月末日までに提出を受けた請求書に関し、各月分の報酬額を翌月末日までに乙指定の銀行口座に振り込むことで支払う。
なお、その際の振込手数料は、甲の負担とする。
(契約条件の変更)                       ポイント2:途中変更に注意!
第7条 本契約の当事者の一方は、委託業務の内容、実施方法等契約条件の変更を行う必要があると判断した場合は、甲乙協議の上、変更することができる。この場合、委託業務の内容、実施方法、報酬等の変更内容について、書面で明示し、合意するものとする。
2 甲は、前項により契約条件を変更する場合は、乙と協議の上、従前の契約に基づき乙が実施した業務の進捗状況に応じて、それまでの報酬を支払うものとする。
(知的財産権の侵害)
第8条 乙は、本件業務の実施に当たり、第三者の著作権等の知的財産権を侵害しないように留意するとともに、成果物が第三者の著作権等の知的財産権をも侵害していないことを保証するものとする。
(成果物の検査)
第9条 甲は、乙から提出を受けた成果物に関し、○日以内に検査を行う。
(補修)
第10条 甲は、前条に基づく検査の結果、成果物が一定の納品水準に達していないと判断した場合は、乙に対し、乙の責任と負担による補修を求めることができる。
(成果物の権利)                        ※ポイント4:著作権等に注意!
第11条 本件業務に基づき作成された成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条所定の権利を含む。)は、成果物の検査完了をもって、乙から甲に移転するものとする。
2 乙は、前項の規定に基づき甲に著作権を譲渡した成果物につき、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を行使しないものとする。 
(第三者委託)
第12条 乙は、本件業務の全部又は一部について第三者に委託する必要があると判断した場合は、甲と協議の上、第三者に委託することができる。
(秘密保持)
第13条 甲及び乙は、本契約上の義務を履行する過程において知り得る相手方の業務上の機密に属する情報(以下「秘密情報」という。)の秘密を守り、これらの情報を、相手方の事前の書面による許諾なく、本契約以外の目的のために利用し、又はいかなる第三者に対しても漏洩若しくは開示してはならない。ただし、以下の各号に該当する情報については、この限りではない。
① 相手方から提供又は開示された時点で、既に公知となっている情報
② 相手方から提供又は開示された後に公知となった情報。ただし、公知となったことが、甲又は乙による本条違反の結果である場合を除く。
③ 開示前より相手方である甲又は乙が保有していた情報
④ 甲又は乙からいかなる意味における拘束も受けていない第三者から、本契約締結後に、合法的に取得した情報
2 甲及び乙が、裁判所又は政府機関の命令により秘密情報を開示する場合には、前項本文の規定は適用しない。
3 甲及び乙は、本契約終了後、又は、相手方から求められた場合にはいつでも、遅滞なく、相手方から提供された秘密情報並びに秘密情報を記載又は包含した書面、電子的記録その他の媒体物及びその全ての複製物を返却、又は相手方の指示に従い破棄するものとする。
4 本条に定める機密保持義務は、本契約終了後も存続する。
(個人情報の取扱い)
第14条 甲は、乙に関する個人情報を取り扱うに当たっては、乙の同意を得た利用目的の達成に必要な範囲内で取り扱うものとする。
2 乙は、本件業務の履行に当たって知り得た個人情報及び業務上知り得た機密情報を取り扱うに当たっては、契約範囲外で当該情報を利用してはならない。また、これらの情報の保管や契約終了後の消去等について、甲乙あらかじめ協議の上、決定するものとする。
(損害賠償)                          ※ポイント5:損害賠償に注意!
第15条 甲又は乙は、相手方に対して、自己の責に帰すべき事由により、本契約又は個別契約に違反し、相手方に損害を与えた場合、当該損害を賠償する。
2 前項に定める損害は、当該違反による直接かつ現実に被った損害に限る。
(法令の遵守)
第16条 甲及び乙は、本契約に基づく業務を遂行するに当たっては、関連する法令を遵守するものとする。  

この契約の成立の証として、本契約書を 2 通作成し、甲乙各 1 通を保有するものとする。
令和○年○月○日

                          甲
                          住所:
                          電話番号:
                          社名:株式会社○○
                          代表者名                印

                          乙
                          住所:
                          電話番号:
                          氏名:■■               印  

個別契約(発注書)のひな形(ダウンロードは、こちら

令和○○年○月○日
発 注 書
                              
                              (甲)発注者 
                              住所:
                              社名:株式会社○○
                              代表者名:           印
                              TEL/FAX/MAIL:
                              本件業務に関する担当者:△△
                              TEL/FAX/MAIL:

(乙)
住所:
氏名:■■           印
TEL/FAX/MAIL:  

甲は、乙に対し、以下のとおり執筆業務を委託する。
                            ※ポイント1:委託内容に注意!
1 委託内容 △△出版社刊『質・量ともに良好な自営型テレワーク』コラム執筆業務
・キャッチコピー 1 本(24文字以内)
・小見出し 2 本(各 16文字以内)
・本文(28文字×20行 560文字以内)  

2 契約金額 ¥○○○○(税込)(源泉徴収税¥○○○○を報酬振込時に差し引く)  

3 履行期限 令和○年○月○日  

4 納品先・方法 株式会社○○(担当者△△)あてテキストデータをメールで納品すること  

5 諸経費の取扱い                   ※ポイント3:報酬等に注意!
甲は、以下の経費を負担するものとする。
・甲が指定する仕事に必要な機器
・打ち合わせ時の交通費
・通信費
・報酬の振込手数料  

基本契約と個別契約とは

基本契約とは、同じ当事者の間で、受発注が繰り返される場合を想定し、個々の受発注に共通する事項を定める契約書です。基本契約の締結後に、個々の取引のたびに受発注の書類を取り交わします。それが個別契約であり、以下の2パターンがあります。 

  • パターン1: 基本契約書 + 発注書 + 請書 
  • パターン2: 基本契約書 + 個別契約書 
パターン1


パターン2

上記「ライター業務」のひな形は、パターン1の「基本契約書」と「発注書」のひな形です。なお、パターン1の「請書」(うけしょ)というのは受注者が注文を受け付けたことを確認する書類です。パターン1では「発注書」と「請書」により成立する個々の取引を「個別契約」と呼びます。

ポイント1:委託内容の注意点

基本契約書 第1条「委託業務」の「△△△に関する業務」では「ライターに関する業務」と記載することが考えられます。なお、「ライターの業務」には、雑誌や書籍などの出版物、ウェブサイトなどに掲載する文章を書く業務や、取材や写真撮影などを行う業務などが含まれます。

発注書(個別契約)1 委託内容」では、どのような内容の執筆を行うかを具体的に定める必要があります。その例として、発注書のひな形では、どのメディア(例:「△△出版社刊」)で、どのようなテーマ(例:『質・量ともに良好な自営型テレワーク』)に関する記事を執筆するのかを明示し、具体的な執筆内容(例:「キャッチコピー 1 本「小見出し 2 本」)を記載し、数量や文字数の基準を設けることで、納品物のクオリティや期待値を明確にしようとしています。なお、受託者は作業イメージがわくよう、クライアントから仕事の内容を受注前に詳しく説明してもらいましょう。少しでも無理や不安材料があったら、受注しないという選択も必要です。

自営型テレワーカーの仕事は請負契約が多いことに注意が必要です。本記事のひな形は、主に請負契約の場合を想定しています。請負契約準委任契約の違いを理解しておきましょう。

請負契約は、仕事の完成を目的としており、自営型テレワーカー自らが仕事を調整して、その責任で完成に努めます。
●請負人には仕事を完成させる義務があります。もし、仕事の完成前に請負人の責任でない災害等が起こって、仕事を最初からやり直さなければならなくなっても、請負人は原則として余計にかかった費用を請求することができません。
●成果物が不完全なものであれば、注文者から不完全な点の補修や損害賠償を求められます。その程度が軽微でないときは、契約を解除されることもあります。
準委任契約は、当事者の一方が事務行為をすることを相手方に委託し、相手方が承諾することによる契約です。
●当事者はいつでも契約を解除できますが、相手方に不利な時期に委任を解除したとき等に相手方の損害を賠償しなければなりません。
●そのため、仕事を完成することに不安がある場合には、準委任契約として受注することも検討しましょう。

ポイント2:途中変更の注意点

基本契約書 第4条・第7条「契約の解除」および「契約条件の変更」では、契約の途中で、契約の解除や条件変更が必要となった場合、自営型テレワーカーが既に仕事に着手した分について、発注者が報酬を支払うことを事前に文書で合意しておくことが重要です。個別の発注書で盛り込むことは難しいため、ひな形のように基本契約書に盛り込むことが望ましいと考えられます。

基本契約書のひな形の抜粋

(契約の解除)
第4条 (略)                        ※ポイント2:途中変更に注意!
2 甲と乙が合意により契約を解除する場合、甲は、乙に対し、当該成果物の完成割合及びその時点において有する機能等をもとに甲及び乙が誠実に協議し、その分の報酬を支払う。
(略)
(契約条件の変更)                      ※ポイント2:途中変更に注意!
第7条 (略)
2 甲は、前項により契約条件を変更する場合は、乙と協議の上、従前の契約に基づき乙が実施した業務の進捗状況に応じて、それまでの報酬を支払うものとする。

ポイント3:報酬等の注意点

フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、「報酬の額」の明示が求められます。そして、「報酬の額」の明示に当たっては、諸経費といった「費用等」の金額を含めた総額が把握できるように明示する必要があります。

基本契約書 第5条「報酬等」の第2項では「交通費、通信費等諸経費の取扱いについては、甲乙協議の上、決定する。」とだけ概括的な記載となっています。

発注書(個別契約)5 諸経費の取扱い」で発注者が負担する経費が定められています。

発注書のひな形の抜粋

5 諸経費の取扱い             ※ポイント3:報酬等に注意!
甲は、以下の経費を負担するものとする。
・甲が指定する仕事に必要な機器
・打ち合わせ時の交通費
・通信費
・報酬の振込手数料

ポイント4:著作権等の注意点

フリーランス法では、知的財産権が発注内容に含まれ、これを譲渡し又は許諾する場合には、譲渡する権利の範囲、許諾する範囲を記載する必要があります。

基本契約書 第11条「成果物の権利」では、成果物に関する著作権が、成果物の検査完了後に乙(ライター)から甲(発注者)へ移転されることが記載されています(1項)。この場合、乙(ライター)が著作者人格権(氏名表示権、公表権、同一性保持権)を行使しない旨も明記されています。これにより、成果物を使用する際に甲(発注者)が直面する可能性のある著作者表示や公表・改変に関するトラブルを回避できます。

基本契約書のひな形の抜粋

(成果物の権利)                ※ポイント4:著作権等に注意!
第11条 本件業務に基づき作成された成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条所定の権利を含む。)は、成果物の検査完了をもって、乙から甲に移転するものとする。
2 乙は、前項の規定に基づき甲に著作権を譲渡した成果物につき、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を行使しないものとする。

一方、著作権をライター(乙)に残す方法もあります(サンプル条項第1項)。この場合、発注者(甲)は、ライター(乙)から成果物について著作権の利用許諾を得る必要があり(第2項本文)、利用許諾料は有償又は無償があります。サンプル条項は有償の例です(第2項但し書き)。

サンプル条項:ライターに著作権を残す場合

(成果物の権利)                ※ポイント4:著作権等に注意!
第11条 本件業務に基づき作成された成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条所定の権利を含む。)は、乙に帰属する。
2 乙は、甲に対して、甲に単独で帰属する知的財産権を成果物に実施又は利用することを許諾する。但し、甲は、●●の使用により得られた製品を販売したときは、使用許諾料として、その売上金額の○パーセントを乙の指定する期日までに支払う。

ポイント5:損害賠償の注意点

業務委託契約においては、万が一契約違反があった場合に備え、損害賠償に関する条項を異事前に書面で合意しておくことが重要です。

基本契約書 第15条「損害賠償」の第2項では、契約違反による損害賠償の範囲は、「直接かつ現実に被った損害に限る」とされています。これは、違反者の負う損害賠償責任の範囲を制限し、間接的な損害や予測できなかった損失について賠償責任を免れることを意味します。

基本契約書のひな形の抜粋

(損害賠償)                  ※ポイント5:損害賠償に注意!
第15条 (略)
2 前項に定める損害は、当該違反による直接かつ現実に被った損害に限る。

この他に損害賠償を制限する方法として、損害賠償の範囲を委託料を限度と定める方法もあります。

損害賠償の責任を限定するサンプル条項

(損害賠償)               
第15条 (略)
2 前項の損害賠償の累計総額は、本契約の委託料を限度とする。

「フリーランス法」の施行に伴い、業務委託契約書における明確な記載が一層求められるようになりました。ライター業務に関する契約においては、委託内容、報酬、著作権、契約の変更・解除に関する条項を慎重に設計し、発注者とフリーランスの双方が合意できる形で契約書を作成することが重要です。このような対策を講じることで、契約後のトラブルを防ぎ、円滑に業務を進めることが可能となります。

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メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。 

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