SaaS(クラウド型ITサービス)の販売パートナーの種類とは?ビジネスモデルの特徴も解説|弁護士監修
SaaS(Software as a Service)やクラウド型ITサービスのユーザーを拡大するためには、販売パートナーとの提携が重要です。SaaS(クラウド型ITサービス)の販売パートナーの種類は、通常の物販と同じように代理店(Agent)と販売店(Distributer)がありますが、クラウド上で提供されるサービスには特有の注意点が存在します。これらの注意点を理解し、契約書に反映させることが、後々のトラブルを防ぐために不可欠です。この記事では、クラウド上で提供されるサービスに特有の注意点を中心に、代理店契約、再販型契約(仕入れ型)、ホワイトラベル型(OEM型)契約の各形態の違いについて、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。
代理店契約と販売店契約の違い
販売パートナー契約には、代理店(Agent)契約と販売店(Distributer)契約の2つの基本的な形態があります。代理店契約では、代理店が商品やサービスを顧客に紹介する仲介者としての役割を担い、在庫リスクは基本的に発生しません。代理店は売買契約の当事者とならず、単に商品の紹介や販売支援を行うことが一般的です。一方、販売店契約では、販売店が商品やサービスを仕入れて再販するため、在庫リスクを負いますが、その代わりに、販売価格の設定や販売戦略を自由に決定できることが一般的です。
代理店と販売店の違いを図にすると次の図のようになります。代理店は、売買契約の当事者とならないので、在庫リスク等を負わない点が根本的な違いです。
販売店契約の種類:再販型(仕入れ型)vs ホワイトラベル型(OEM型)
SaaSサービスでは販売店(Distributer)契約の中には、再販型契約(仕入れ型)とホワイトラベル型(OEM型)の2つの形態があります。これらの違いは、主にブランド名の表示や責任の範囲にあります。
(1) 再販型契約(仕入れ型)
再販型契約では、販売店はプロバイダーのサービスを仕入れて、そのまま再販します。ここでの「仕入れ」という言葉は、物理的な仕入れという意味ではなく、サービスの利用権を購入する形態を指します。販売店は、一定量のライセンスを購入し、それを顧客に「小分けして」再販する形になります。一定のマージンを上乗せして小売り(再販)することにより差益を得ます。この場合、顧客(利用ユーザー)は通常、SaaSプロバイダーの利用規約に同意し、販売店はサポートや追加サービスを提供しますが、サービスの提供責任はプロバイダーにあります。再販型契約では、販売店は価格設定に一定の自由を持ちつつも、顧客との契約の主導権はプロバイダーにあります。
「仕入れ型」契約においては、物理的な在庫リスクは発生しませんが、契約やライセンスの管理が重要です。販売店が過剰にライセンスを仕入れると、需要に応じて転売できず、過剰在庫となるリスクがあります。また、ライセンスの有効期限切れや価格変更、需要予測の誤りなどのリスクも存在します。これらは物理的な在庫リスクではなく、契約リスクや価格リスクとして管理する必要があります
(2)ホワイトラベル型(OEM型)
ホワイトラベル型(OEM型)では、販売店が自社ブランドでSaaSサービスを提供します。顧客(利用ユーザー)は、販売店のブランド名でサービスを利用し、通常は販売店の利用規約に同意します。しかし、実際のサービス提供はプロバイダーによるため、プロバイダーの利用規約も適用されます。ホワイトラベル型契約の販売店は、サービスの提供責任を大部分負い、サポートやカスタマイズを行う場合もあります。
(3) 在庫リスクの違い
- 再販型(仕入れ型): 再販型契約では、販売店が事前にライセンスを仕入れるため、需要の見通しを誤った場合、売れ残ったライセンスを保有するリスクが発生します。需要予測が外れると、過剰在庫を抱えてしまい、これが販売店にとってのリスクとなります。
- ホワイトラベル型(OEM型): 販売店は、事前にライセンスを仕入れることは必須ではないため、在庫リスクは比較的低いです。サービスは顧客の需要に基づいて提供され、顧客に対してカスタマイズやブランド変更が行われるため、過剰在庫や売れ残りという概念が存在しません。
代理店契約 vs 販売店契約(再販型) vs 販売店契約(OEM型)の対比
以下の表では、代理店契約、販売店契約(再販型)、販売店契約(ホワイトラベル型)の違いを明確にまとめています。
代理店契約 | 販売店契約(再販型) | 販売店契約(OEM型) | |
サービス提供者 | SaaSプロバイダー | SaaSプロバイダー、販売店(一定の役割) | 販売店 (自社ブランドで提供) |
サービス提供の責任 | SaaSプロバイダー | 主にプロバイダーだが、販売店が関与 | 販売店(自社ブランド) |
利用規約に同意する主体 | 顧客がSaaSプロバイダーの利用規約に同意 | 顧客がSaaSプロバイダーの利用規約に同意 | 顧客が販売店の利用規約に同意 |
販売店の利用規約の有無 | 一般的に無い(支援のみ) | 追加サービスに関して販売店の規約が適用される場合あり | 顧客が販売店の利用規約に同意(提供範囲が販売店の規約に基づく) |
ブランド名の表示 | SaaSプロバイダーのブランド | プロバイダーのブランド | 販売店のブランド名が表示される |
顧客クレーム対応の有無 | SaaSプロバイダーが直接顧客対応 | SaaSプロバイダーが主に対応(但し、販売店も対応又はサポート) | 販売店が直接顧客対応(サポート含む) |
在庫リスク | なし(仕入れが無い) | 比較的高い(利用権を事前に一定量購入する場合が多く、需要予測の誤りによる売れ残りや過剰在庫リスクがある) | 比較的低い(事前に多くのライセンスを仕入れることは必須ではない) |
どの形態を選ぶべきか?
代理店契約、再販型契約、ホワイトラベル型契約のいずれを選ぶべきかは、以下のビジネスニーズや戦略に応じて決定するべきです。
(1) 代理店契約を選ぶべき場合
低リスクで、顧客への紹介や販売支援に特化したい場合に適しています。代理店契約では、在庫リスクを負うことなく、プロバイダーのサービスを顧客に紹介することに集中できます。価格設定やサービスの変更に関与しないため、比較的シンプルな運営が可能です。
(2)再販型契約を選ぶべき場合
中程度のリスクで、サービスを自社で仕入れて再販し、顧客へのサポートや追加サービスを提供したい場合に最適です。販売店は価格設定に一定の自由があり、顧客に対して価値を追加することができます。再販型契約は、収益の幅を広げる可能性があり、利益率の改善が期待できます。
(3) ホワイトラベル型契約を選ぶべき場合
高リスクをとって、自社ブランドを強化したい場合や、他のサービスと統合して新たなブランド価値を作り出したい場合に適しています。ホワイトラベル型契約では、自社ブランドでSaaSサービスを提供でき、顧客には自社のブランド名でサービスを提供するため、運営は複雑になりますが、自由度が高く、ブランドの強化と差別化が図れます。
代理店契約 | 販売店契約(再販型) | 販売店契約 (ホワイトラベル型) | |
リスクの大小 | 低リスク | 中程度のリスク | 高リスク |
投下資本 | 低い(主に顧客紹介と販促活動に投資) | 中程度(広告、営業支援、サポートなど) | 高い(ブランディング、マーケティング、カスタマイズ) |
在庫リスク | なし(仕入れが無い) | 比較的高い(大量に仕入れて、小売りする差益ビジネスモデルのため) | 比較的低い(事前に多くのライセンスを仕入れることは必須ではない) |
販売の自由度 | 低い(価格設定や変更に関与しない) | 比較的高い(価格設定に一定の自由) | 高い(自社ブランド名で価格設定やサービス提供) |
顧客クレーム対応の有無 | SaaSプロバイダーが直接顧客対応 | SaaSプロバイダーが主に対応(販売店も対応又はサポートもあり得る) | 販売店が直接顧客対応(サポート含む) |
運営のシンプルさ | 高い(主に顧客紹介と販促に特化) | 中程度(サポート、再販の管理などが必要) | 低い(自社ブランドに基づく多様な活動と管理が必要) |
まとめ
SaaS(クラウド型ITサービス)の販売パートナー契約には、代理店契約と販売店契約(再販型、ホワイトラベル型)の違いがあり、それぞれの契約形態に応じて法的リスクも異なります。代理店契約では主に販売支援を行うだけであり、サービス提供の責任はプロバイダーにあります。一方、販売店契約(再販型)やホワイトラベル型契約では、販売店が顧客との契約を結び、サービス提供に関与する範囲やブランド名の使用など、さらに詳細な契約内容が求められます。
どの契約形態を選択するかは、ビジネス戦略やリスク許容度に応じて慎重に決定することが重要です。それぞれの契約形態に適したリーガルチェックを行い、適切な契約書を作成することで、法的トラブルを未然に防ぐことができます。
コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所
メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。
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メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。