ビジネスマッチング契約書とは?/リーガルチェックポイントも解説!|弁護士監修

ビジネスマッチング契約は、企業間で取引先やパートナーを紹介し、一方の商品・サービス販売を促進するために交わされる契約です。見込み顧客を委託者に紹介して手数料を受け取る契約であることから、顧客紹介契約や紹介手数料契約とも呼ばれることがあります。この契約では、紹介手数料(報酬)の定め方が非常に重要です。また、販売提携の一種であり、その業務範囲を正しく理解するためには、販売提携の3つの形態を理解しておくことが有用です。そのため、販売提携の3つの形態について説明した後、ビジネスマッチング契約書の紹介手数料等の注意点について、契約書自動チェックサービス”CollaboTips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。

目次

販売提携の枠組み

販売提携には以下の3つの契約形態があります。

販売店契約

販売店契約は、メーカーの製品を他社の販売店が仕入れ、自社で販売する契約です。販売店は在庫を保持し、製品を市場に供給する役割を担います。販売店に商品の所有権が移転するため、リスクを負うことになる点が特徴です。

代理店契約

代理店契約では、代理店が他社の製品を代理して販売します。代理店は製品の所有権を持たず、販売促進や契約交渉をして契約締結支援を行い、契約成立に対して手数料や成功報酬を受け取ります。

ビジネスマッチング契約

ビジネスマッチング契約は、企業間で顧客候補や取引先を紹介し、商談を促進することを目的とした契約です。マッチング業者は、商談が成立した場合に報酬を得る形態であり、代理店契約とは異なり、契約交渉や実際の取引契約には直接関与しません。

3つの契約形態の対比

3つの販売提携の契約形態を対比すると、次の通りです。

契約形態主な役割・目的取引関与の範囲報酬体系リスク・責任
販売店契約販売店はメーカーから製品を購入し、顧客に転売する。販売店が在庫を保持し、製品を販売する。仕入価格と転売価格の差額。製品の在庫リスクや製品の不具合対応の責任あり。
代理店契約代理店が製品を代理して販売、契約交渉を行う。代理店は製品の所有権を持たず、契約交渉をする。成功報酬(契約成立後の手数料)。製品の在庫リスクを負わない。
ビジネスマッチング契約企業間で顧客候補や取引先を紹介し、商談を促進する。契約交渉には直接関与せず、顧客紹介(情報提供)が主。成功報酬(報酬の発生タイミングが重要)。取引が成立しなかった場合、責任はない。

ビジネスマッチング契約書のリーガルチェックポイント

契約目的と業務範囲の明確化、および責任範囲の明確化

ビジネスマッチング契約は、受託者が委託者のために顧客候補の紹介や商談の促進を行う業務委託契約です。他の販売提携(販売店契約や代理店契約)と取り違えないことが重要です。特に、ビジネスマッチング契約は成果報酬型の準委任契約が多く、商談の成立までは請け負わないケースが殆どです。そのため、業務の範囲や責任の範囲を明確に定めることが重要です。

業務範囲の明確化

通常、ビジネスマッチングの流れは以下のようになります。

①見込み顧客の情報提供
      ↓
②見込み顧客と委託者との面談
      ↓
③見込み顧客と委託者の契約成立
      ↓
④見込み顧客が委託者に契約金の支払い


※ただし、③や④まで至らないケースもあります。
したがって、契約書では受託者が提供する「ビジネスマッチングサービス」の内容を、上記①~④のどの範囲で何を行うのかを明確に定めることが重要です。例えば、「顧客候補の情報提供」や「面談設定」といった業務範囲を明記し、受託者が実際に販売活動や契約締結に関与しないことを記載します。

第〇条(業務の範囲) 
1 委託者は受託者に対し、次項に定義する「ビジネスマッチングサービス」の提供を委託し、受託者はこれを受託した。 
2 本契約において「ビジネスマッチングサービス」とは、委託者が別途指示する基準に基づいて、委託者受託者協議のうえ選定した会社(以下「選定顧客」といいます。)と委託者との、委託者の事業に関する面談機会を設定すること(以下「面談設定」といいます。)をいう。

責任範囲の明確化

ビジネスマッチング契約では、上記③の契約成立や④契約金の支払いに至らなかった場合もあるため、その責任範囲も明確に定めておく必要があります。たとえば、「紹介した企業との契約が成立しなかった場合、いかなる責任も負わない」旨を明記することが一般的です。また、「紹介した企業の信用情報や財務状況について、受託者はその正確性を保証せず、委託者が責任を持って判断する」といった条項を加えることで、委託者が過度な責任を負うことを防ぎます。

報酬の発生条件(タイミング)の明確化

報酬の発生条件やタイミングは、ビジネスマッチング契約において重要なポイントです。特に、以下のポイントに注意することをおすすめします。

報酬の発生条件:上記①~④までの、どのタイミングで報酬が発生するのか(例えば、情報提供時、面談設定時、契約成立時など)を明確に記載しましょう。

報酬額の決定方法:報酬額や報酬率をどのように決定するのか、例えば契約金額の何パーセントといった具体的な計算方法を記載します。

報酬の発生タイミングと決定方法の一例

報酬の発生タイミング報酬の決定方法
① 見込み顧客の情報提供時顧客情報1件につき数千円~数万円
(③又は④と組み合わせることも多い)
② 見込み顧客と委託者との面談設定時面談1回設定につき1~2万円
(③又は④と組み合わせることも多い)
③ 見込み顧客と委託者の契約成立時契約成立時に契約金額の一定割合(例:5%)
※一定期間内の契約成立が条件となることがある
④ 見込み顧客が委託者に契約金を支払った着金時着金した契約金の一定割合(例:5~10%)

報酬発生のタイミングを事前に決めておくことで、契約締結後にどのタイミングで報酬を支払うべきかが明確になり、誤解や紛争を防ぐことができます。

第〇条(紹介手数料・実費)
1 委託者は、ビジネスマッチングサービスに対する手数料として、金○○円(消費税込)を受託者に支払う。
2 前項の手数料のほか、委託者は、「ビジネスマッチング」サービスに対する手数料として、委託者と選定顧客との間で契約(書面、口頭、電話、電磁的方法によるもの等、形式は問わない。以下「商取引契約」という)が成立後、当該契約の成立1つにつき成約手数料(消費税相当額を含む。)として〇円を受託者に支払うものとする。

報酬の支払時期の明確化

報酬の支払い時期や方法についても契約書で明確に規定しておくことが重要です。例えば、「契約成立後30日以内に報酬を支払う」という条件を設定することが一般的です。支払い方法(銀行振込など)や通貨(円など)も、契約書に記載することで不明点を排除できます。

報酬の返金の有無

ビジネスマッチング契約においては、契約が解除された場合や商談が成立しなかった場合の報酬の取り扱いについても規定する必要があります。たとえば、見込み顧客との契約が解除された場合や商談が破談になった場合に報酬の返金義務が発生するかどうかを明記することが重要です。返金の有無や返金条件については、契約書でしっかり定めておきましょう。

委託者に報告義務を課す

成功報酬型の契約では、受託者の報酬確保の観点から、委託者と顧客との間に商談が成立したか否かを受託者が把握できるよう、委託者に対してマッチングの成否を報告する義務を設けることが重要です。また、顧客への照会を認めることも一つの手段です。委託者が報告義務を怠った場合の違約金を定めることも、契約書において考慮するべきです。

第〇条(委託者の成約の報告義務)
1 委託者は、次の項目について、判明後すみやかに受託者に報告・提出する。
⑴ 受託者から紹介された「紹介先」との商談の成否
⑵ 商取引成約時、取引成約の事実及び取引金額が確認できる資料(契約書・申込書等)
2 受託者は、委託者と「紹介先」との商談の成否を確認するため、必要な範囲で「紹介先」に照会し、「紹介先」の有する紹介にかかる商談に関する資料を入手することができるものとする。
3 委託者が故意又は過失によって第1項に基づく受託者への報告等をせずに、「紹介先」との間に第〇条第〇項又に規定する商談を成立させ、第〇条第〇項に定める受託者に支払うべき手数料の全部又は一部の支払いを免れた場合は、受託者に対し、第〇条第〇項に定める手数料を支払う他、当該手数料と同額の違約金を支払うものとする。

秘密保持義務の規定

ビジネスマッチング業務を通じて、取引先や顧客の情報を取り扱うことが多いため、秘密保持条項は非常に重要です。相手方のビジネス情報を第三者に漏洩しないよう、秘密保持義務を契約書に盛り込んでおく必要があります。

契約期間と終了条件

ビジネスマッチング契約の期間や契約終了時の条件を明確に定めておきましょう。特に、契約が終了する条件(例:契約満了、業務の不履行、双方合意など)を契約書内に明記することが、トラブル防止に役立ちます。また、契約終了後も効力を存続させる条項(存続条項)を規定しておき、契約期間中に成約した案件の報酬請求権は、契約終了後も存続することを明記しておくことや、契約期間中に紹介した案件が、契約期間終了後に成約した場合でも、報酬を請求できるように定めておくことも重要です。

第〇条(契約期間)
1 本契約の有効期間は、○○年○月○日から○年〇月〇日までとする。ただし、期間満了の〇日前までに、いずれかの当事者が合理的な理由に基づき更新しない旨を書面等で通知しない限り、本契約は、同一の条件で〇年間自動的に更新されるものとし、その後も同様とする。
2 本契約が理由の如何を問わず終了した後においても、第〇条、第〇条及び第〇条の定めは、なお有効とする。また、本契約の終了は、第〇条に基づき既に生じた別途費用の請求権に影響を与えないものとする。
3 前二項にかかわらず、本契約の終了後2年以内に、委託者が、受託者から紹介を受けた候補企業との間で、理由の如何を問わず第〇条第〇項に規定する取引の「成功」が生じた場合には、本件業務の成果による成功とみなし、受託者は委託者に対して第〇条に定める報酬請求権を有する。

まとめ

ビジネスマッチング契約書は、企業間で新たなビジネスチャンスを生み出すために重要な法的文書です。契約書作成時には、契約目的や業務範囲の明確化、報酬体系、秘密保持などに注意し、ビジネスマッチング業務の性質に即した内容を盛り込むことが大切です。これらのリーガルチェックポイントを守ることで、契約後のトラブルを防ぎ、スムーズな取引関係を築くことができます。

コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所

メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。 

契約書チェック「コラボ・ティップス」とは

メリットパートナーズ法律事務所が監修する契約書チェック自動サービス “Collabo Tips”[コラボ・ティップス]は、新しいビジネスをつくりたい中小企業の法務担当者に伴走します。「オンラインで」「だれでも」「簡単・自動で」使えるのが特徴です。契約を「バトル」にせず、迅速なコラボレーションを進めるために、あなたの立場に立って助言します。無料プランでも契約書7種類をチェックできます。

  • URLをコピーしました!
目次