【技術検証(PoC)契約書】リーガルチェックポイント7点を解説|弁護士監修

PoC (Proof of Concept:技術検証)は、本格的な開発や製品化を始める前に、新しい技術が実際に製品として機能するかどうかを検証するための重要なプロセスです。このプロセスに関わる契約は、双方にとってリスクや責任を適切に管理するために重要です。本記事では、PoC契約書を作成・チェックする際に押さえるべきリーガルチェックポイント7点を、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。
検証範囲を明確化する
まずは、PoCで、どこまでの検証作業を行うかという検証範囲(スコープ)が重要です。過去には、本開発への移行をちらつかせて無償でPoCを依頼され、次々と検証を繰り返すことで、「PoC貧乏」という事態に陥るケースが見られました。こうしたリスクを回避するために、受託者は作業内容やスケジュールを契約書に明記することが求められます。例えば、特許庁のモデル契約書の技術検証(PoC)契約書(新素材編)や技術検証(PoC)契約書(AI編)に、別紙として検証作業の記載例があります。


請負契約か、準委任契約かを確認する
PoC契約は通常、請負契約または準委任契約として締結されます。これらの契約形態を理解することが重要です。
- 請負契約:受託者がある仕事を完成することを約束し、委託者(依頼者)がその仕事の結果に対して報酬を支払う契約です(民法632条)。
- 準委任契約:依頼者が何かの事務を処理することを受託者に委託するものです(民法643条、民法656条)。「仕事」の完成を目的とするものではないことが特徴です。
PoCは本開発や製品化の前段階であり、成果が不確定であるため、準委任契約が適している場合があります。この場合、成果に対する非保証の条項を契約書に明示することが有用です。例えば、特許庁のモデル契約書の技術検証(PoC)契約書(新素材編)では、以下のサンプル条項が提示されています。
成果非保証の条項サンプル:
第5条
甲は、善良なる管理者の注意をもって本検証を遂行する義務を負う。ただし、前条の委託料の支払を受けるまでは、甲は本検証に着手する義務およ びこれによる責めを負わない。
2 甲は、本検証に基づく何らかの成果の達成や特定の結果等を保証するものではない。

無償とせず、委託料を定める
PoCが初期段階の検証に過ぎないことを理由に、委託者が無償で作業を求めるケースがありますが、「PoC貧乏」を避けるために、委託料を設定することが望ましいです。また、検証作業に必要な実費の負担についても、契約書で明確に定めましょう。
チェックポイント:
- 委託料を設定する
- 実費の費用負担も定める
PoC後の次の段階を見据える
PoC後に次の段階へ進まない場合、早期に別の企業との協業を模索する必要があります。そのため、PoCには作業期間(通常は数週間以内)を設定し、PoCの結果報告後、次の段階として本格的な共同開発や製品化に向けた提携契約に進むか否かを決定する期限を設けることが望ましいです。
また、次段階に進まない場合には、委託者が追加委託料を支払う定めを設けることで、受託者の労力と時間に対する補償が確保されます。
例えば、特許庁のモデル契約書の技術検証(PoC)契約書(新素材編)では、以下のサンプル条項が提示されています。
次段階への移行期限の条項サンプル:
第 6 条 甲および乙は、本検証から共同研究開発段階への移行および共同研究 開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、本契約第3条第3項に定める 本報告書の確認が完了した日から 2 ヶ月以内に、甲に対して共同研究開発契 約を締結するか否かを通知する。
次段階に進まない場合の追加委託料の条項サンプル:
甲および乙が、本契約第3条第3項に定める本報告書の確認が完了した日から 4 ヶ月以内に、共同研究開発契約を締結しなかった場合は、乙は、甲に対し、 本検証の追加の委託料として、本報告書確認完了から5ヶ月以内に●万円(税別)支払う。
成果物の取り扱い
PoC契約では、検証結果の取り扱いについて慎重に確認する必要があります。特に、検証結果の権利が誰に帰属するか、またその利用に関する条件を明確にしておくことが重要です。
- 委託者に帰属する場合:委託者が対価を支払うため、検証結果の権利が委託者に帰属するケースが比較的多いと考えられます。ただし、この場合でも、受託者は自社が保有する従前のノウハウや技術、既存の権利については譲渡しない旨を契約書に明記する必要があります。
- 受託者に帰属する場合:近年では、受託者が検証結果の権利を保持するケースも増えています。特に、受託者が独自の技術やノウハウを基に検証を行い、それを基盤として事業化を目指す場合には、受託者に権利が帰属することがよくあります。もしこの場合、委託者がその成果物を利用する必要があるときは、予め契約書で利用許諾を得ておくことが必須です。その際、許諾が無償か有償かを明確にし、どの範囲で利用できるかについても規定することが求められます。


意図せず自社のノウハウ開示義務を負わないこと
契約書での秘密保持条項や情報開示に関する条件を十分に確認し、意図しないノウハウの開示義務を負わないように注意が必要です。特に、委託者が自社の検証のために必要であるなどを理由に素材のサンプルやソースコード等の開示を求めてくる場合がありますが、重要なノウハウや技術情報は、契約書で開示義務を避けるようにして、自社で守るべきです。
お客様であるとはいえ、安易に情報を開示すると、委託者が目的外に利用したり、他のサプライヤー(競合他社)に提供したりするリスクが生じます。例えば、中小企業庁が公表する知的財産取引ガイドラインの技術開発委託契約書のひな形では、以下の条項が例示されています。
第6条(確認事項)
1 略
2 甲及び乙は、本契約及び原契約により、いかなる意味においても相手方に対する秘密情報の開示義務を負うものではないことを相互に確認する。
並行開発の禁止
並行開発禁止条項は、秘密情報の目的外利用や技術の混同(コンタミネーション)を防ぐために重要です。禁止範囲や禁止期間を明確に定め、契約終了後も一定期間の禁止を適用するかどうかを慎重に判断する必要があります。とくに、次段階に進まないにもかかわらず、契約終了後も開発の制限を受けるとお互いにリスクが高いことに点に注意が必要です。
チェックポイント:
- 並行開発の禁止範囲(同一技術だけなのか、類似技術も含まれるか)
- 次段階に進まない場合に、契約終了後も続く開発制限には要注意
サンプル条項:
第〇条(並行開発禁止)
当事者は、本契約の有効期間中〔 及び本契約終了後〇年間 〕※1 、相手の当事者からの書面による事前の承諾なく、日本国内外において、独自又は第三者との間で、本契約の目的と同様又は類似の検討、開発、製造、販売又は提供等を行わないものとする。
※1:次段階に進まない場合、契約終了後の開発制限は避けることが望ましいケースもあります。この場合、カッコ〔 〕の箇所は削除します。そして、次段階に進む場合に並行開発の禁止が必要なときは、次段階の契約書で改めて並行開発の禁止を定めることが考えられます。
まとめ
PoCであっても、契約書で明確な取り決めが必要です。契約内容が曖昧だと、後々のトラブルやリスクが増大するため、急がば回れで、契約書にしっかり各条項を盛り込むことで、双方が安心して、スピーディーに協業を進めることができます。
コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所
メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。