【売買基本契約書】リーガルチェックすべき8点とは | 弁護士監修
売買基本契約書とは、継続的な売買取引に共通して適用されるルールを定める重要な文書です。サプライチェーンを構成する製造業界のほか、小売業やIT業界など幅広く利用される契約です。一度契約を締結すると、その後何年もその売買基本契約に基づいて多数の個別取引が行われるため、リーガルチェックが欠かせません。この記事では、売買基本契約を結ぶ際、中小企業やスタートアップ企業の法務担当者がおさえるべきポイント8点について、契約書自動チェックサービス”CollaboTips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。
ポイント1:売買基本契約書でよいか
売買基本契約と似た契約類型に、「製造委託基本契約」があります。いずれも受注者が顧客(発注者)との継続的な取引を行うための基本契約であるという点では共通します。しかし、売買基本契約と製造委託基本契約には次のような違いがあります。
- 対象製品の違い
- 売買基本契約書:すでに市販されている既製品が取引対象です。受注者である売主は、商品を市場から仕入れるか、自ら製造して顧客である買主に納品します。
- 製造委託基本契約:顧客である発注者の仕様に基づいて製造する製品が取引対象となります。受注者は市場から仕入れるだけではなく、自ら製造する過程が重要となります。
- 法的性質
- 売買基本契約:売買契約。商品の売買に関する規定が中心で、取引が比較的シンプルです。
- 製造委託基本契約:売買契約又は請負契約。法的性質が一義的に定まらないケースが多く、製造の詳細や品質管理、知的財産の扱いなど、より複雑な要素が含まれます。
- リスクの違い
- 売買基本契約書:売主(受注者)が商品に対して責任を持ち、品質や納期に関するリスクを負います。
- 製造委託基本契約:委託者が製品の仕様を提供し、受託者が製造するため、責任の所在やリスクを委託者と受託者で分担します。
- 契約の種類の選択(どちらの契約を選ぶのか)
実務上、契約書の冒頭のタイトルが「売買基本契約書」となっていても、発注者が製品の仕様を提供し、受託者がその仕様に従って製造を行う取引であるケースが多く見られます。この場合、契約書のタイトルに関わらず、製造委託基本契約に当たると考えられるため、製造委託基本契約としてリーガルチェックを行うことが重要です。
ポイント2:個別契約の方法も定める
売買基本契約書の締結後、個々の売買取引の方法は、以下の2パターンがあります。
- パターン1: 売買基本契約書 + 発注書 + 請書(うけしょ)
- パターン2: 売買基本契約書 + 個別契約書
パターン1 | パターン2 |
パターン1では発注書に商品名、数量、価格、納入時期などの重要事項が記載されます。そして、「発注書」と「請書」により成立する個々の売買取引を、「個別契約」と呼びます。
パターン1のときに、売主が「請書」を出さない場合に備え、一定の期間内に連絡がない場合は請書が出されたものとみなす旨を定めることが重要です。
【サンプル条項】
第〇条(個別契約)
1 本契約は買主と売主との間の個々の売買に関する基本的事項を定めるものであり、各個別売買には本契約のほか、各個別契約(以下、これら各々を「個別契約」という)が適用されるものとする。
2 買主と売主の間の取引について、その目的物(以下「本商品」という)の内容、数量、納期、支払代金額・支払期日等に関しては個別契約ごとに定める。
3 当事者間の個別契約は買主が注文書を発行し売主がこれに対し承諾の意思表示を行ったとき、又は両当事者が個別契約書を締結したときに成立する。ただし、当該注文書の発行日から〇日以内に受諾の拒否がなされない場合、承諾の意思表示がなされたものとみなす。
ポイント3:個別契約との優先関係を明記
個別契約と売買基本契約書の内容が食い違った場合、どちらの規定を優先するのかを明記することが重要です。
【個別契約が優先する例】
第〇条(優先関係)
個別契約において、本契約と異なる事項を定めたときは、個別契約が優先して適用される。
通常は、上記サンプル条項のように個別契約が優先すると書かれることが多いと考えられます。一方で、もし、売買基本契約書を優先させたい場合、次のように記載します。
【基本契約が優先する例】
第〇条(優先関係)
個別契約において、本契約と異なる事項を定めたときは、本契約が優先して適用される。[但し、個別契約において、本契約に定める事項を排除する旨を明記した上で、本契約と異なる事項を定めた場合に限り、個別契約の内容が優先して適用される。]
この場合、個別の発注書に納期や納品場所等を記載しても、基本契約書と食い違っているときは、その部分は発注書の記載が無効になる恐れがある点に注意が必要です。そこで、上記サンプル条項のカッコ[ ]内に書いたように、個別契約で「本契約に定める事項を排除する旨を明記した」ときに限り、個別契約が優先すると記載することも考えられます。
ポイント4:納品方法や検収方法を定める
納品方法や検収方法が不明確な場合、納品された製品の品質や数量に関してトラブルが発生しやすくなります。検収を行わないまま受領すると、後々のクレームが難しくなることがあります。下記のサンプル条項を参考に、契約書で納品方法や検収方法についても明確に定義しましょう。
【サンプル条項】
第〇条(引渡し)1売主は、個別契約の定めた納入期日を厳守の上、個別売買に関する商品(以下「本商品」という)を買主の指定した納入場所に納入する。
2買主は、本商品が納入されたときは、遅滞なく受入検査を実施し、買主の受入検査に合格したときは、売主に対し検査合格の通知を発するものとする。
3受入検査により、本商品の仕様、品質等について買主の要求する一定の基準に達していないこと(以下「不適合」という。)を発見したときは、買主は直ちにその旨を売主に通知し、併せてその処理について指示を与えるものとする。
4売主は、前項に基づき買主より指示を受けたときは、買主の指示に従い、速やかに本商品の修補等を実施し、本商品を再度納入して、前各項に準じた検査を受けるものとする。
5本商品の納入後〇日以内に、買主が検査合格の通知又は本条第2項に定める通知をしないときは、納入時に検査合格したものとみなす。
ポイント5:契約不適合責任の期間を定める
民法では納品後の契約不適合責任が1年間と規定されていますが、商事売買では買主が商品の受領後6か月以内に契約不適合を発見したときは、直ちに売主に通知を発しなければ救済を受けられないとされています(商法526条2項)。そこで、買主が契約不適合の救済期間を6か月よりも長くした場合は、契約においては、この責任の期間を明確に定める必要があります。
【サンプル条項】
第〇条(契約不適合責任)
1 買主は、目的物の検収後、目的物の種類、品質又は数量が本契約又は個別契約の内容に適合しないこと(以下、「契約不適合」という。)を発見し、発見後〇か月(※)以内にその旨を売主に通知した場合には、売主に対し、契約不適合を理由とする目的物の修補、代替品若しくは不足分の引渡し(以下、「履行の追完」と総称する。)又は代金の減額のうちから一つ又は複数の手段を選択し、これを請求することができる。ただし、個別契約において、売主が下請法でいう下請事業者に該当する場合には、下請法の定める範囲で売主は本条の責任を負う。
2 前項の規定は、買主の売主に対する損害賠償の請求及び解除権の行使を妨げるものではない。
ポイント6:PL保険の加入
商品によって第三者に損害を与えた場合、受託者がPL(製造物責任)保険に加入していないと、委託者が大きな経済的損失を被る可能性があります。特に、商品に欠陥があって人身事故が発生した場合、訴訟リスクが高まります。そこで、売主にPL保険の加入を義務づけ、リスクを軽減することが考えられます。サンプル条項3項を参照ください。
【サンプル条項】
第〇条(製造物責任)
1 当事者は、本商品の欠陥により、第三者に損害が生じ、又はそのおそれがあると認めた場合、直ちに相手の当事者に通知する。この場合、当事者は協議の上、原因の調査、当該欠陥の除去及び損害発生防止のために必要な措置を取る。
2 本商品の欠陥(製造物責枉法第2条第2項にいう欠陥をいい、以下も同様とする。)に起因して、本商品又は本商品を使用した商品が第三者の生命、身体又は財産等に対し損害を与えたことにより、買主が当該第三者から損害賠償を請求された場合には、売主が当該損害(弁護士費用を含むが、これに限らない)を賠償する。
3 売主は、自らの費用負担により、本条の責任を担保するために合理的に必要な生産物賠償責任保険に加入する。なお、売主は、買主から求められた場合には、当該保険の加入を証する書面の写しを速やかに買主に提出する。
ポイント7:第三者との紛争の責任は
売買基本契約は、すでに市場にある既製品を受注者である売主が市場から仕入れるか、自社で製造して発注者である買主に納品するものです。既製品である以上、買主がその製品が第三者の権利などを侵害しないことを保証するのが一般的であると考えられます。
【サンプル条項】
第〇条(第三者との紛争)
売主は本商品のいかなる部分も、第三者の著作権やその他の知的財産権に基づく権利を侵害していないことを買主に保証するものとする。
一方、取引の対象が発注者の仕様に基づいて製造する製品である場合は、売買基本契約ではなく製造委託基本契約となります。この場合は、発注者が第三者の権利侵害の責任を負うこともあります。この点については、売買基本契約ではなく、製造委託基本契約としてリーガルチェックしましょう。
ポイント8:契約期間は適切か
継続的取引では、契約期間や更新の有無が不明確な場合、一方的に取引を打ち切られるリスクがあります。これにより、発注者(買主)又は受注者(売主)の事業運営に大きな支障をきたす可能性があります。この場合、契約締結上の過失等といった信義則上の損害賠償等のトラブルになることも考えられます。そのため、契約期間や更新の有無を契約書で明確にしておくことが望ましいです。
【サンプル条項】
第〇条(有効期間及び残存条項)
1 本契約の有効期間は、○年○月○日から○年〇月〇日までとする。ただし、期間満了の〇日前までに、いずれかの当事者が更新しない旨を書面等で通知しない限り、本契約は、同一の条件で〇年間自動的に更新されるものとし、その後も同様とする。
2 本契約が終了した場合であっても、第〇条(秘密保持)[は本契約終了後〇年間は有効に存続するものとし※]、第〇条(知的財産権の取扱い)、第〇条(競業避止義務)、第〇条(契約不適合責任)、第〇条(契約終了後の措置)、第〇条(損害賠償)、第〇条(管轄・仲裁の合意)及び第〇条(準拠法)は引き続き有効に存続するものとする。
※第2項のカッコ[ ]は、秘密保持義務の残存期間を限定する場合に記載します。
このように、売買基本契約書には多くの重要なチェックポイントがあります。各条項をしっかりと定めることで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。なお、契約の各サンプル条項や注意事項については、Collabo Tipsの自動チェックでも確認することができます。
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