【業務提携とは?】資本提携との関係についても解説|弁護士監修
企業が成長を目指して行う戦略的な手段のひとつに「企業提携」があります。企業提携は、大きく分けて業務提携と資本提携という2つの形態がありますが、これらはどちらも企業の強みを活かし、協力しながら事業を展開するための重要な方法です。本記事では、「業務提携」について詳しく説明しつつ、資本提携との違いや、これらが組み合わさることで企業提携がどのように形成されるのかについて、契約書自動チェックサービス”CollaboTips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。
業務提携とは
業務提携とは、企業が他の企業と共同で事業を進める活動であり、次の通り、「技術提携」、「製造提携」、「販売提携」があります。
これらは、企業活動の基本構造を理解するとイメージがわきやすいです。
企業活動の基本構造
企業の活動は、主活動と支援活動の2つに分類されます。
| 主活動
主活動は、企業が顧客に提供する製品やサービスを生み出すために行う中心的な業務です。主活動は、ビジネスの流れに沿って、次の①~⑤の5つの段階に分けられます:
これらは、製品やサービスを市場に提供し、顧客のニーズに応えるために必要不可欠な活動です。企業が競争力を持つためには、これらの各段階で効率的かつ効果的に活動を進める必要があります。(なお、マイケルポーターのバリューチェーンを参考にしていますが、バリューチェーンでは②研究開発と③の一部の調達は「2.支援活動」に分類されます。)
なお、ビジネスの流れを、川の流れにたとえて、①②の段階を上流活動、③の段階を中流活動、④⑤の段階を下流活動と呼ぶことがあります。そして、異なる段階に位置する企業同士が提携することを垂直提携と呼び、逆に、同じ段階に位置する企業同士(競合同士)が提携することを水平提携と呼ぶことがあります。
| 支援活動
支援活動は、主活動が円滑に行えるように支援する役割を持っています。支援活動は、次のa~cの3つに分けられます:
これらは、企業が持つリソースを管理し、主活動を支えるためのバックボーンとして重要な役割を果たします。
主活動では、「業務提携」を行う
業務提携は、企業の主活動のうち、主に②研究開発、③生産、④集客・販売において、企業が他社と共同で事業を進めて、技術や営業リソースを共有し、協力することによって、各企業が単独では達成できない成果を上げようとする活動です。業務提携は、次の通り、②研究開発に関連する提携が「技術提携」として、③生産に関連する提携が「製造提携」として、④集客・販売に関連する提携が「販売提携」として行われます。
| 研究開発(②)⇒技術提携
研究開発における業務提携は、企業が新しい技術や製品を共同で開発する形で行われます。代表的な提携形態には、ライセンス契約や共同開発契約があります。これにより、企業は技術面での強みを活かし、研究開発の効率化やスピードアップを図ることができます。
- ライセンス契約:企業が他社に技術や製品の使用権を付与する契約。これにより、企業は自社の技術を活用し、技術の普及を促進できます。
- 共同開発契約:企業同士で新技術や製品を共同で開発する契約。双方がリソースや知識を共有し、開発の効率を高めることができます。
| 生産(③)⇒生産提携
生産における業務提携は、製品の製造を他の企業に委託したり、共同で生産体制を築く形で行われます。製造委託契約が代表的な形態です。これにより、製造コストを削減したり、品質を向上させることが可能です。
- 製造委託契約:企業が製造の一部または全てを他社に委託し、生産能力を効率化します。これにより、自社の製造リソースを最適化し、コスト削減や品質向上を図ります。
| 集客・販売(④)⇒販売提携
集客や販売における業務提携では、製品やサービスを他の企業のネットワークを通じて販売することが一般的です。販売店契約、代理店契約、ビジネスマッチング契約などが行われ、これにより企業は新しい市場に迅速に進出することができます。
- 販売店契約:他社が自社製品を販売するための契約。メーカーの製品を他社のネットワークを通じて販売してもらい、市場へのアクセスを拡大します。
- 代理店契約:他社が自社の製品を代理して販売する契約。代理店は製品の所有権を持たず、販売促進や契約交渉を支援し、契約成立に対して手数料や成功報酬を受け取ります。
- ビジネスマッチング契約:顧客候補や取引先を紹介すること(情報提供)を目的とした契約です。マッチング業者は、商談を促進し、双方が合意すれば報酬を得る形態です。代理店契約とは異なり、契約交渉や実際の取引契約には直接関与しません。
支援活動として、「資本提携」を行う
業務提携とは別に、資本提携という企業間の提携があります。業務提携が主に主活動に関係する一方で、資本提携は支援活動のうち「ファイナンス」に関連する部分で、企業間で資金や経営リソースを共有することを目的に行われます。これには、少数資本参加や合弁会社設立などの形態があります。資本提携を通じて、企業は新しい市場に進出したり、財務面で安定を図ったりします。
- 少数資本参加:企業が他社に少額の資本を投資し、経営に関与しない株式取得等を行います。
- 合弁会社設立:2つ以上の企業が共同で新しい会社を設立し、リスクを分散しながら新しい市場に進出する形態です。これにより、両社が持つリソースを効果的に活用できます。
業務提携と資本提携の違い
業務提携(主活動で行われる) | 資本提携(支援活動で行われる) | |
目的 | 業務面での協力が中心 | 資金面での協力 |
出資の有無 | 出資を伴わない | 出資を伴う |
経営への影響 | 経営権には影響しない | 経営権の一部を共有する |
柔軟性 | 比較的容易、契約による調整 | 資本関係が絡むため、慎重を要する |
業務提携は、あくまで「業務上の協力」(主活動)に重点を置いています。これに対して、資本提携は「経済的なつながり」を重視し、企業の財務構造にも影響を与えます。このため、資本提携は業務提携に比べて深い関係を築くことができる一方で、意思決定における影響も大きくなる傾向があります。
企業提携(業務提携や資本提携)とM&Aの違い
M&A(Merger and Acquisition、合併・買収)とは、企業同士が統合(合併)したり、ある企業が他の企業を買収したりすることで、企業間の関係を強化したり、規模の拡大を目指したりする手段です。M&Aは、資本提携と同様に企業間の連携を進める方法ですが、経営権の移譲や企業の組織形態の大きな変化を伴う点で異なります。
どちらも企業間での協力や関係強化を目的としますが、その性質と目的には重要な違いがあります。
- 企業提携(業務提携や資本提携)は、企業間の協力関係を築くものであり、あくまで独立性を保持したまま相互に補完し合う形態です。業務提携や資本提携を通じて、企業は相乗効果を得ることができますが、各企業は自社の経営や経済活動を維持します。
- M&A(合併・買収)は、企業間で経営権の統合を目指すものです。買収や合併により、企業間の独立性が失われ、一方の企業の経営権が移動します。M&Aは、事業規模の拡大や市場シェアの獲得を狙った戦略であり、企業間の完全な統合を目的としています。
まとめ
以上をまとめると、次の図のように、企業戦略には、相手の事業や会社に対する支配権(経営権)の移動の有無により、企業提携とM&Aに別れます。そして、企業提携には、資本出資は伴わない、業務面(主活動)での協力が中心の業務提携と、少数の資本の出資を伴う資本提携に分かれることが分かります。
コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所
メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。