【著作権譲渡契約】リーガルチェックポイント7点を解説|弁護士監修

著作権譲渡契約書は、小説、イラスト、映像などのコンテンツ、又はプログラムなどの著作物に係る著作権をクリエイターから譲渡する際に作成される書面です。クリエイターは創作した著作物の権利を譲渡することで対価を得ることができ、譲受人はその著作物を自由に利用できるようになります。本記事では、著作権譲渡契約書を作成する際に重要な7つのリーガルチェックポイントを、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。
譲渡の範囲
(1)著作権とは
著作権は、著作物を創作した者に付与される権利です。複製権、演奏権、上映権など11種類の支分権に分かれています(著作権法21条~28条)。これらの支分権は一部又は全部を譲渡することができます(著作権法61条1項)。たとえば、支分権の一部を譲渡する場合、「複製権のみを譲渡する」といった内容を契約書に記載し、全部を譲渡する場合、「すべての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)を譲渡する」と記載します。
(2) 著作権法第27条及び第28条の権利の注意
全部を譲渡する場合、上記の通り「(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)」と記載する必要があります。このように記載しないと、著作権の11種類の支分権のうち、27条に定める翻訳権・翻案権等及び28条に定める二次的著作物の利用に関する原著作者の権利については、譲渡者に留保されたものと推定されてしまうためです(同61条2項)。

著作者人格権に関する条項
著作者には、著作権とは別に、著作者人格権が発生します。これには、次の3種類あります。
①公表権(第18条第1項):未公表の著作物を公表するかどうか、また公表する場合はその方法や時期を決定する権利
②氏名表示権(第19条第1項):著作物を公表する際に実名または変名で著作者名を表示するかどうかを決定する権利
③同一性保持権(第20条第1項):著作物の内容や題号を著作者の意に反して改変されない権利

この著作者人格権は、著作権とは異なり、譲渡することができません。そのため、譲渡者が著作者人格権を行使しない旨の「不行使の特約」を盛り込むことができます。
第〇条(著作者人格権)
譲渡人は譲受人または譲受人が指定する第三者に対し著作者人格権を行使しないものとする。
原版の譲渡
原版の譲渡やデータ提供の有無や内容についても記載しておくべきです。著作権譲渡契約はあくまで著作権そのものの移転を規定するものであり、原版(例えば、原稿や音源、動画ファイル、ソースコードなど)の所有権(保有権)は別途扱う必要があります。
そこで、契約書には、「著作権のみを譲渡し、ソースコードは提供しない」といった内容を明記することで、後々誤解を防ぐことができます。逆に、原版も譲渡する場合は、その取り決めも別途記載することが大切です。
第〇条(原版の譲渡)
譲渡人は、譲受人に対し、本著作物を利用した製品を制作するために必要な資料、データ、素材等の譲渡を行う。
譲渡者による表明保証
(1)正当な権原の保証
譲渡者は、譲渡する著作権が正当に自らに帰属しており、第三者の権利を侵害していないことを保証する表明保証条項を契約に盛り込む必要があります。この表明保証により、譲受人は譲渡された著作権を安心して利用することができます。
(2)第三者へのライセンスの有無
2020年の著作権法改正により、ライセンス契約が登録なしでも、著作権を譲り受けた人に対しても効力を持つようになりました。そのため、譲渡契約を結ぶ前に、著作権者が他の人(第三者)にライセンス契約を結んでいた場合、譲り受けた人はその利用を禁止することができません。これを避けるためには、譲受人は譲渡契約において、「譲渡者が第三者にライセンスを与えていない」ことを保証する条項を盛り込むことが重要です。これにより、過去に他の人とライセンス契約が結ばれていた場合のリスクを防ぐことができます。
第〇条(譲渡権限の表明保証)
譲渡人は、譲受人に対し、本契約締結時点において、以下の事項を表明し、保証する。
(1)譲渡人が本著作物の著作権者であること
(2)本著作物の著作権者は譲渡人以外に存在しないこと
(3)本著作権を、譲受人以外の第三者に譲渡していないこと
(4)本著作物について、第三者に利用許諾をしていないこと
第三者による権利侵害が生じた場合の措置
著作権譲渡後、第三者がその著作権を侵害した場合、譲渡者がどのように対応するかについても契約書で規定しておくべきです。たとえば、第三者から著作権侵害を訴えられた場合に、譲受者が責任を負い、譲渡人をその支援をして保護することを約束する条項を盛り込みます。
著作権の登録
著作権の譲渡の効力は、当事者の意思表示のみによって効力が生じます。もっとも、著作権譲渡の効力を第三者に対抗するためには、著作権移転の登録が必要です(著作権法第77条1号)。そのため、契約書には譲渡後に譲渡者が著作権移転の登録手続きを行う義務を明記しておくべきです。
第〇条(著作権登録)
譲渡人は、譲受人が本著作権の譲渡の登録をしようとする場合、これに協力するものとする。ただし、登録に要する費用は譲受人の負担とする。
再譲渡に関する事項
著作権は譲受人が第三者に再譲渡することができますが、譲渡者が再譲渡を禁止することもあります。再譲渡を禁止する条項を契約書に加えることで、譲受人が第三者に無断で著作権を譲渡することを防止できます。
たとえば、「譲受人は本契約に基づく著作権を再譲渡してはならない」と明記することで、著作権の流通を制限し、譲渡者の意図を反映させることができます。
第〇条(再譲渡)
譲受人は、譲渡人の書面による同意がある場合を除き、本著作権を第三者に再譲渡することができない。
この記事のまとめ
譲渡する権利の範囲、譲渡対価、著作者人格権の取扱い、第三者による権利侵害への対応、移転登録の手続きなど、すべての要素を正確に定めることが不可欠です。これらの要点をしっかりと盛り込んだ契約書を作成することで、後々のトラブルを防ぎ、円滑な著作権譲渡を実現できます。


コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所
メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。