【著作物ライセンス契約書】のリーガルチェックポイント7点|弁護士監修

自社の商品やサービスに社外のクリエイター(著作者)が制作したイラストや動画などの著作物を利用する際、最初に思い浮かべるのは「著作権の譲渡」を受けることではないでしょうか。しかし、クリエイターが「譲渡したくない」といった理由で契約が成立しないこともあります。そんな時、選択肢として有効なのが「ライセンス契約」です。
ライセンス契約を結ぶことで、クリエイターが譲渡には応じなくても、著作物を一定の条件で利用することができます。本記事では、著作物ライセンス契約書におけるリーガルチェックポイント7点について、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。

目次

対象著作物の特定

ライセンス契約の第一歩は、「どの著作物に関するライセンス契約か」を明確にすることです。契約書には、著作物の名称・題号種類(例:映画、写真、音楽など)、内容、及び著作者名を明記することが望ましいです。

また、著作物が複数ある場合や詳細な情報が必要な場合は、別紙を用いて詳細を添付することも有効です。別紙に詳細情報を記載することで、契約書自体は簡潔に保ちながら、必要な情報を補足できます。

例:

  • 名称・題号:映画『未来の冒険』
  • 種類:映画
  • 内容:SF冒険映画
  • 著作者名:山田太郎

誰と契約を締結するか

(1)  著作者と著作権者の違い

  1. 著作者(クリエイター)は、実際に創作活動を行った人(例:作家、イラストレーター、音楽家等)です。
  2. 著作権者は、著作権を所有する個人または法人であり、その著作権を譲渡したり、ライセンスを供与したりする権利を有する者です。著作物を創作した時点では、クリエイターが著作権者ですが、著作権が譲渡または相続により移転した場合、その承継者が新たな著作権者となります。

(2)  著作者が有する著作者人格権

著作者は著作者人格権という権利を有します。これには次の3つの権利があります。

  • 公表権:著作物を公にするかどうかを決定する権利
  • 氏名表示権:著作物に名前を表示するかどうかを決める権利
  • 同一性保持権:著作物の内容を変更されない権利

これらの権利は譲渡や相続できません。ライセンス契約においてクリエイターに残る著作者人格権に注意を払う必要があります。

(3)  著作権者が有する著作権(財産権)

著作権者が持つ財産権は、以下のような権利が含まれます:

  • 複製権
  • 上演権
  • 上映権、等

ライセンス契約は、この財産権の利用許諾に関する契約であり、契約書ではこれらの権利をどう扱うかを明確にする必要があります。

(4)  著作権者の特定

ライセンス契約を結ぶ相手は、必ずしも著作物を創作したクリエイター(著作者)その人とは限りません。次の通り、「著作者」と「著作権者」とが違うことがあることに注意が必要です。

  1. 著作権が移転している場合

著作権は著作者から他者に譲渡又は相続により移転することがあるため、契約を結ぶ相手が著作権者であるかを確認する必要があります。

  1. 職務著作の場合

職務著作では、従業員が業務上作成した著作物について、著作権は企業に帰属することがあります。従業員と企業間での契約内容に基づき、誰が著作権を持つのかを確認する必要があります。

  1. 共同で創作された著作物の場合

共同著作物の場合、著作権は共同著作者全員に帰属します。そのため、利用許諾を得るためには全員の合意が必要です。部分的にしか関わっていない制作者でも著作者として権利を持つことがあるため、共同創作の有無を確認することが重要です。

  1. 原作がある場合

例えば、アニメ化や映画化などの二次創作を行う場合、原作となる著作物の権利者(著作権者)からも許諾を得る必要があります。

ライセンスの範囲・種類

ライセンス契約において、次の通り、「利用範囲」とその「種類」をどう定めるかが重要です。

(1)  独占か非独占か

  • 独占ライセンス:ライセンサーは、指定されたライセンシー以外に対して同じ著作物のライセンスを与えることができません。この場合、ライセンシーは通常、より高い対価(ロイヤリティ)やその最低保証料を支払うことになります。
  • 非独占ライセンス:複数のライセンシーに対して同じ著作物のライセンスを与えることが可能です。

契約書において、独占か非独占かをしっかりと記載し、その違いを理解した上で契約を締結することが大切です。

(2)  地域

ライセンス契約は、著作物が使用される地域を明確に定める必要があります。地域を特定することで、ライセンシーが許可された範囲内で著作物を使用できることが保証されます。例えば、国内のみで使用する場合と、海外を含む広範囲で使用する場合では、契約内容が異なることがあります。

(3)  期間

契約期間も明確に定めるべきポイントです。ライセンサーが許可する使用期間を契約書に記載し、期間終了後の取り決めについても整理しておくことが求められます。

(4)  使用方法:二次的著作物の利用の可否にも注意

ライセンス契約書において、著作物がどのように使用されるのかを明確にすることは非常に重要です。使用方法に関する規定は、著作権者とライセンシー双方の権利と責任を整理するために必須です。具体的には、利用媒体や使用する権利の内容をきちんと定めることが必要です。

  1. 利用媒体の特定

著作物の利用方法には、どのメディアやプラットフォームで利用されるかを指定することが求められます。例えば、書籍、映画、テレビ、インターネット、アプリケーション、ゲームなど、どの媒体で利用するかを契約書に記載し、そのメディアを超えての利用を禁止する場合にはその旨を明確にしておく必要があります。これにより、ライセンシーが許可された媒体以外で著作物を利用することを防げます。

  1.  使用する権利内容の明確化

ライセンシーが著作物をどのように使用する権利を持つかも詳細に規定するべきです。例えば、複製権、公衆送信権、上演権などの具体的な権利内容を明確化することが有用です。

  1. 二次的著作物の利用の可否

次に、二次的著作物の利用についても明確に規定しておく必要があります。二次的著作物とは、元の著作物を基に新たに創作された作品(例:翻訳、映画化、リメイク、イラストの派生物など)です。この利用の可否や条件について事前に合意しておくことは、トラブルを防ぐために非常に重要です。例えば、ライセンサーが映画化や商品化を許可する場合、その条件や報酬(ロイヤリティなど)についても明記しておくべきです。

(5)  サブライセンス(再許諾)

サブライセンスは、ライセンシーが第三者に対して再度ライセンスを許諾することです。サブライセンスを許可するかどうかを契約書で定め、サブライセンスに対する条件も明記しておきましょう。

納入方法

著作物は無体物であるため、通常は納入方法について特別な規定は必要ありません。しかし、利用者側の利便性を考慮して、著作物(紙媒体、デジタルデータなど)の納入の有無やどのように納入されるかを契約書に記載しておくことが望ましいです。

例えば、デジタルデータの場合、その形式(例:PDF、JPEG、MP4など)や納入方法(メール添付、オンラインストレージなど)を明確に定めておきます。

ライセンス料

著作権ライセンスの対価(ライセンス料)は、契約で定めた使用条件に基づいて支払われ、通常は一括払いまたは使用回数・使用量に応じた方式のいずれかで決定されます。

(1)  一括払い方式

一括払い方式では、ライセンス料が契約の締結時に全額支払われます。この方式は、著作物の利用期間や使用範囲が明確であり、ライセンシーが一度支払った後、契約期間中に追加料金が発生しない場合に適しています。たとえば、特定の期間にわたる使用や、特定のプロジェクトにおける一回限りの使用が想定される場合には、一括払い方式が有効です。この方法では、支払いが一度で済むため、管理が簡単で予算も明確に設定できるというメリットがあります。

(2)  使用回数・使用量に応じた方式(ランディング・ロイヤルティ方式)

使用回数や使用量に応じた方式では、ライセンス料は著作物の実際の利用状況に基づいて支払われます。この方式には以下のような種類があります。

  • 使用回数に応じた料金設定: ライセンシーが著作物を使用する回数に応じてライセンス料を支払う方式です。例えば、広告キャンペーンで一定回数だけ使用する場合や、放送回数に基づいて課金される場合などです。
  • 使用量に応じた料金設定: ライセンシーが著作物をどれだけ使用したか(例えば、販売数量や配信数、製造数量など)に応じて料金が変動する方式です。例えば、映画や音楽のライセンス契約では、DVDの販売数やストリーミング回数に応じて支払う金額が異なることがあります。

この方法は、使用状況に応じてライセンス料が決定されるため、ライセンサーにとっては収益の機会を増やす可能性があり、ライセンシーにとっては使用規模に応じた柔軟な契約が可能となるメリットがあります。

(3)  混合型

一部のライセンス契約では、これらの方法を組み合わせた混合型の料金体系が採用されることもあります。例えば、最初に一括で一定額を支払い、その後、使用回数や使用量に応じた追加料金が発生する形式です。このような混合型では、契約締結時に基本的な料金を支払い、追加的な使用に対しては変動料金が加算されるため、双方にとっての予測可能性と柔軟性を確保することができます。

登録の有無

2020年の著作権法改正により、利用者側の利便性のため、著作物のライセンス(利用許諾)は登録せずに第三者に対抗できることとなりました。そのため、ライセンス契約を登録する必要はなくなりました。

しかし、逆にいえば、利用者側としては、登録がないことで、第三者が先にライセンスを受けている場合のリスクが生じます。そのため、ライセンサーに対して表明保証を求めることが望ましいです。表明保証においては、そもそも、著作権者が正当な権原を有することの表明保証も盛り込むことが望ましいです。

表明保証の例

第〇条(譲渡権限の表明保証)
譲渡人は、譲受人に対し、本契約締結時点において、以下の事項を表明し、保証する。
(1)譲渡人が本著作物の著作権者であること
(2)本著作物の著作権者は譲渡人以外に存在しないこと
(3)本著作権を、譲受人以外の第三者に譲渡していないこと
(4)本著作物について第三者に対して利用を許諾していないこと

契約終了後の措置

契約終了後の処理についても、契約書に明記しておくべきポイントです。特に、ライセンシーが契約終了後に複製物を保持している場合、それをどう扱うべきかについて取り決める必要があります。

主な取り決め内容

  • 複製物の破棄:契約終了後に利用者が残した複製物を直ちに破棄すべきか。
  • 一定期間の販売:終了後、一定期間内に在庫を販売できるか。

これらの内容を事前に契約書で合意しておくことで、無用なトラブルを避けることができます。

まとめ

以上が、著作物ライセンス契約書における主要なリーガルチェックポイントです。契約書を作成・レビューする際には、これらの要素をしっかりと検討し、具体的かつ詳細に契約内容を定めることが重要です。

コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所

メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。 

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