【出版契約】リーガルチェックポイントー出版権設定と著作権利用許諾の違いも解説|弁護士監修

出版社が著作物を出版するためには、著作権者から(1)出版権の設定を受ける、(2)著作物の利用について許諾を受ける、又は、(3)著作権の譲渡を受ける、という3つ方法があります。最初の2つの(1)、(2)をあわせて「出版契約」と呼ばれます。この記事では、出版契約における主な7つのポイントを、(1)と(2)の違いに触れながら、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。

目次

出版をするための著作権者と出版社との契約の主な種類

出版契約には主に3種類があります。

(1)出版権の設定

出版権設定契約は、著作権者が出版社に対して特定の著作物の出版を許可する契約です。出版社は、その著作物に関して独占的な出版権を取得します(著作権法80条)。

(2)著作権の利用許諾(出版許諾契約)

著作権者が出版社に自分の著作物の利用を許諾する契約です。許諾は、独占的なものと非独占的なものがあり、非独占的な場合は、複数の出版社に許可を出すことが可能です。

(3)著作権譲渡契約

著作権者から、著作物に係る著作権(複製権、公衆送信権等)の譲渡を受ける契約です。

これらうち、最初の(1)、(2)の2つが「出版契約」と呼ばれるものです。

出版権の特徴(著作権の利用許諾との違いは?)

上記(1)の出版権の設定は、上記(2)の著作権の利用許諾と似ている部分も多いですが、次の通り、著作権法により、特別に出版社の権利や義務が定められている点に特徴があります。

出版権者の権利

・専有権(独占権)

出版権者(出版社)は著作物を「原作のまま」複製する権利を専有します(著作権法80条)。

これに対して、著作権の利用許諾の場合、契約の内容次第では、著作権者は第三者にも同様の利用許諾が可能です。

・差止請求権

出版権者(出版社)は、その出版権の侵害者に対して、自己の名で差止請求や損害賠償請求をすることができます(著作権法112条、114条、民法709条)。

これに対して、著作権の利用許諾の場合、利用許諾を受けた者は、原則として、自己の名前で差止請求や損害賠償請求をすることができません。

出版権者の義務

出版権者(出版社)は、著作権法上、次の2つの義務を負うことが定められています。

出版行為を行う義務

出版権者(出版社)は、著作権者から原稿の引き渡しなどを受けた日から、6か月以内に出版行為を行わなければなりません(著作権法81条1号イ)。さらに、その慣行に従って継続して出版行為を行う義務があります(同号ロ)。

増刷・改訂時の通知義務

その著作物が改めて複製されるとき(つまり、増刷や改訂をするとき)は、著者は正当な範囲内でその著作物に修正や増減を加えることができます(同82条1項)。この機会を確保するため、出版権者(出版社)は増刷や改訂の都度、あらかじめ著者に通知しなければなりません(同2項)。

出版権者の権利の消滅

出版権は、次の場合に消滅します。

・存続期間(特に、契約書に記載しない場合、3年間)の満了

出版権の存続期間を定めない場合、最初の出版行為等があった日から3年で消滅します(同83条2項)。

・出版社が出版義務を履行しない場合

出版権者(出版社)が出版権者が原稿の引き渡しなどを受けてから6か月以内に出版行為を行わない場合(同84条1項)や慣行に従って継続的に出版する場合において出版権者が出版をしない場合(同84条2項)に、著作権が出版権を消滅させる旨を通知したとき。

・著者の確信に適合しない場合

著作物の内容が著作権を有する著者の確信に適合しなくなり、出版権者に出版権を消滅させる旨を通知したとき(同3項)。ただし、このときは、著者は出版社に通常生ずべき損害をあらかじめ賠償する必要があります。

登録の要否

出版権の設定は、登録をしない限り第三者に対抗することができません(同88条)。つまり、誤って出版権の重複設定が発生した場合、出版権侵害が発生した場合等に、出版権登録を行っていないと、自らが出版権を有していることを主張できません。

これに対して、著作権の利用許諾の場合は、登録をしないでも、当然に第三者に対抗することができます(著作権法63条の2)。

以上の2種類の出版契約:出版権の設定と著作権の利用許諾の特徴や違いをまとめると、次の対比表になります。

項目(1) 出版権設定契約(2) 著作権の利用許諾契約
出版社の権利複製権(原作のまま複製する権利)利用権(利用する範囲において著作物を使用する権利)
権利の独占性独占的(出版社が唯一の出版者として権利を有する)独占的または非独占的(非独占的な場合は他の出版社にも許諾可能)
差止請求権ありなし
出版社の義務出版義務(6ヶ月以内に出版する義務、慣行に従い継続出版する義務)契約により任意
増刷・改訂時の通知義務(著者に通知する義務)契約により任意
契約の期間出版権設定契約は3年(契約書に期間未記載の場合)契約に基づく期間
権利の消滅1.出版義務を履行しない場合
2.著者の確信に適合しない場合
契約により任意
登録の要否必要(出版権設定を登録しないと第三者に対抗できない)不要(登録しなくても第三者に対抗可能)

出版契約書の注意点

出版契約書は、著者と出版社の関係を守り、双方の権利と利益を明確にするための重要な書面です。以下の7項目を確認し、契約書を作成しましょう。

1. 出版のスケジュール

出版契約書は、著作物が完成した段階で締結することが一般的です。しかし、出版の注文を受けてから契約を締結し、その後に制作を開始する場合もあります。前述した通り、(1)出版権設定契約の場合、出版社は、著作権者から原稿の引渡し等を受けた日から6か月以内に当該著作物について出版行為を行う義務を負う点に注意が必要です(著作権法81条1号イ)

2. 利用権の範囲、排他的利用権の有無

契約書には、地域や形式(書籍、電子書籍など)の範囲について明記する必要があります。また、出版社が独占的に利用権を持つのか、非独占的に許諾されるのかも明記することが重要です。排他的な利用権が与えられた場合、他の出版社には同じ権利を許諾できません。前述したとおり、(1)出版権設定契約の場合、出版権者(出版社)は著作物を「原作のまま」複製する権利を独占します(著作権法80条)が、(2)利用許諾契約の場合、独占か非独占かを契約書で任意に選択できます。

3. 出版に係る費用負担

著作物の完成から出版に至るまでの費用負担を明確にしておくことも重要です。特に、著作物の完成後の企画費、印刷費、販売費、広告費などについて、どちらが負担するのかを確認しましょう。この点は、(1)出版権設定と(2)著作権利用許諾とで大きな違いはありません。

4. 出版権の存続期間                                                         

契約書において、出版権の存続期間を明確に定めておくことが重要です。出版権がいつまで有効か、また、出版が遅滞した場合に契約を解除する権利があるかなど、契約解除の条件も確認しておきましょう。なお、前述した通り、(1)出版権の設定の場合、契約書で存続期間を定めない場合、3年間で消滅する点に注意が必要です。

5. 二次利用権の確認

出版後の二次利用(翻訳や映画化等)に関する権利も契約で取り決めておくべきポイントです。二次利用権を出版社に独占的に許諾する場合、著作権者は将来的にその権利を他の形で交渉する機会を失うことがあるため、その取り決めには慎重に注意を払う必要があります。

6. 著作権登録の要否

前述した通り、出版権の設定は、その登録をしない限り第三者に対抗することができません(著作権法88条)。他方、著作権の利用許諾であれば登録が不要です(同63条の2)。

出版社にとって、出版権登録を受けることが難しい場合は。著作権利用許諾契約を選択することが有力といえるでしょう。

7.対価(印税)に関する確認

出版契約の対価は印税と呼ばれます。契約書には、印税率、発行部数、支払日などを明確に記載し、適切な方法を選択することが重要です。印税方式には、発行部数を基準にする「生産印税方式」と、販売部数を基準にする「販売印税方式」があります。契約の際にどちらを採用するか決める必要があります。

日本書籍出版協会のひな型

出版権設定契約のテンプレートを活用することで、標準的な契約内容を確保できます。これにより、契約締結時に双方の誤解やトラブルを避けることが可能です。

一般的社団法人日本書籍出版協会の契約書ひな形

まとめ

出版契約書は、著作権者と出版社の関係を明確にし、両者の権利と利益を守るために不可欠なものです。契約内容をしっかりと確認し、必要に応じて専門家の助言を受けながら契約を進めていくことが大切です。

コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所

メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。 

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