【技術開発委託契約書】リーガルチェクすべき5点とは | 弁護士監修 

技術開発委託契約とは、社外の法人や個人に技術開発を委託するための取り決めです。コラボレーションする相手と信頼関係を築いて開発プロジェクトを成功させるためには、契約書で開発対象の合意や権利の帰属と利用、成果物の取り扱い、責任の所在などを明文化しておくことが重要です。この記事では、主に中小企業やスタートアップ企業の法務担当者が、技術開発契約書を交わす際にチェックすべきポイント5点と関連するモデル条項について、契約書自動チェックサービス”Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を監修するメリットパートナーズ法律事務所の弁護士が解説します。

目次

ポイント1:「仕様」を明確化する 

技術開発委託契約で、開発対象であるモノの「仕様」が一義的に明確に定められることは少なく、相手との合意形成は難しいものです。開発の内容や範囲が不明瞭な場合、双方の認識のズレがトラブルを引き起こす原因となります。特に「仕様」が明確でないと開発期間が長期化し、開発費の不払いなどのトラブルになりかねません。 

技術開発委託契約では、まず「仕様」の明確化に努めます。仕様を明確にできない場合は、次の通り「準委任契約」にすることも考えましょう。 

ポイント2:「請負契約」か「準委任契約」か 

技術開発委託契約の種類として、「請負契約」と「準委任契約」の2種類が考えられます。請負契約は成果物の完成を請け負いますが、準委任契約は仕事の完成は請け負わず、業務を遂行する契約です。2.の違いに注目ください。 

【請負契約の場合】 

第〇条(契約の目的) 
1 委託者は、受託者に対して、次に掲げる開発(以下「本開発」という)を委託し、受託者はこれを受託する。 
(1) 開発内容:○○分野で用いられる○○に関する技術(以下「本技術」という)の開発。 
(2) 目的:本技術により、○○を実現する。 
(3) 仕様:本技術の仕様は委託者の交付する仕様書のとおりとする。 
(4) 納品物:○○ 
2 受託者は、本契約の規定に従って、本開発を遂行し、本技術を完成(第○条の規定に従って検収完了となった場合をいう。以下同じ)しなければならない。 

【準委任契約の場合】 

第〇条(契約の目的) 
1 委託者は、受託者に対して、次に掲げる開発(以下「本開発」という)を準委任により委託し、受託者はこれを受託する。 
(1) 内容:○○分野で用いられる○○に関する技術(以下「本技術」という)の開発。 
(2) 目的:本技術により、○○を実現する。 
(3) 仕様:本技術の仕様は委託者の交付する仕様書のとおりとする。 
(4) 納品物:○○ 
2 受託者は、○○技術に関する専門知識及びノウハウに基づき、善良な管理者の注意をもって、本開発を行う。なお、委託者及び受託者は、本契約は準委任契約であり、受託者が本技術の完成や特定の成果を保証するものではないことを確認する。 

ポイント3:開発の対価を決める 

開発の対価は、契約の種類に応じて異なります。 

(1) 請負契約の場合 

請負契約では、開発費は一括払いまたは分割払いが一般的です。一括払いは、開発完了後に全額を支払う形式で、分割払いは、着手時と完成時に2回に分けて払う方法のほか、特定のマイルストーンごとに分割して支払う方法があります。 いずれの支払方法であっても、請負契約では、仕事が未完成の部分については対価が支払われない点に注意が必要です。  

【一括払い】 

第〇条(報酬) 
委託者は、受託者に対し、本開発の対価(以下「委託料」という)として、金○○円を、検収完了後○日以内に、受託者が別途指定する金融機関の口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は、委託者の負担とする。 

【分割払い】 

第〇条(報酬) 
委託者は、受託者に対して、本業務の対価として、以下の委託料を受託者が指定する銀行口座に振り込むことにより支払うものとする。なお、振込手数料は、委託者の負担とする。 
(1) 本契約締結日後○日以内:○○円 
(2) ○○の遂行後○日以内:○○円 
(3) 納品物の検収完了後○日以内:○○円 

【マイルストーン払い】 

第〇条(報酬) 
1 本開発の対価(以下「委託料」という)は、金○○円とする。 
2 本件業務の遂行において所期の目的を達成した場合、委託者は、受託者に対し、次の各号の定めに従って、当該成果に対する対価を支払う。 
                                       記 
① 本開発の結果が別紙〇〇に定める性能を達成した時:〇円 
② 本開発の成果を用いた[○○の試作品が完成し、○○の事業化をすることを決定した時/○○の非臨床試験に移行することを決定した時点]: 両当事者で別途協議した金額(ただし、〇円を下回らない。) 
③ 本開発の成果を利用した製品の販売が開始した時点:両当事者で別途協議した金額(ただし、〇円を下回らない。) 

(2) 準委任契約の場合 

準委任契約では、開発期間を定めて所定の金額を支払う方法や、受託者の稼働に応じたタイムチャージ制が一般的です。いずれも、仕事の完成の有無を問わず、対価の支払いが生じます。  

【毎月の固定払い 】

第〇条(報酬) 
委託者は、受託者に対して、本業務の対価として、契約期間中、以下の委託料を受託者が指定する銀行口座に振り込むことにより支払うものとする。 
〇円 /月 

【タイムチャージ制 】

第〇条(報酬) 
本業務の1時間当たりの対価(以下「委託料」という。)は金〇円とする。 

ポイント4: 成果物の取り扱いは 

技術開発委託契約における成果物の取り扱いは、以下の2点がポイントです。 

  • 権利の帰属はどちらか:成果は誰のものか。ただし、受託者に従前からある権利は受託者に残る 
  • 委託者が成果を利用できるか:受託者に残る従前からある権利の利用条件に注意 

開発委託契約では対価の支払いと同時に、成果物の権利が委託者に移転するケースが多いです。ただし、受託者側としては契約を結ぶ前に保有していた技術やノウハウに関する権利は、移転しないことを定めることが重要です。 

下記は委託者に成果物の権利が移転する条項の例です。 

第〇条(成果物の取り扱い) 
1 本契約の遂行の過程で生じた知的財産にかかる知的財産権は、本契約に定める対価を委託者が全て支払った時点で、受託者から委託者に移転する。この場合、当該移転の対価は、委託料に含まれるものとする。 
2 前項に関わらず、次の各号のいずれかに該当する知的財産にかかる知的財産権は、その知的財産を創出又は取得した当事者に単独で帰属するものとする。 
(1) 各当事者が本契約締結日前から保有するもの。 
(2) 各当事者が、本契約を遂行する過程で、相手の当事者から提供された[情報/秘密情報]に依拠せずに独自に創出又は取得したもの。 
3 各当事者は、相手の当事者に対して、自己に単独で帰属する知的財産権を実施又は利用することをそれぞれ許諾する。但し、許諾の条件は別途協議の上定める。 

 受託者が契約締結以前から汎用的な技術を有しており、その技術を利用して委託者に開発業務を提供する場合、下記サンプルのように、成果物の権利を受託者に残すこともあります。 

第〇条(成果物の取り扱い) 
1 本契約の遂行の過程で生じた知的財産にかかる知的財産権は、受託者に帰属するものとする。 

 また下記のように、成果物を委託者と受託者の共有にするケースもありえます。 

第〇条(成果物の取り扱い) 
1 本契約の遂行の過程で生じた知的財産にかかる知的財産権は、両当事者の共有とする。 

成果物の権利を受託者に残す場合でも共有の場合も、各当事者が契約を結ぶ前に保有していた技術やノウハウに関する権利は、移転しないことを定め、委託者としては委託した目的の範囲内では成果物を利用できるように、受託者からその利用の許諾を得ておく必要があることは、委託者に権利が移転する場合と同じです。 

ポイント5:第三者との紛争の責任は 

第三者との紛争に対する責任の所在は明確にしましょう。受託者が責任を負うこともありますが、委託者が受託者に一方的に責任を転嫁することは禁止されています。特に、委託者が指示した場合には、その指示に基づくトラブルについては委託者にも責任が生じます。 

第〇条(第三者との紛争の責任) 
1 受託者は、成果物が第三者の権利を侵害していないことを保証する。ただし、この保証の違反に係る受託者の委託者に対する賠償額は、本契約に定める報酬額を上限とする。 
2 前項の規定にかかわらず、委託者が指定した仕様その他委託者の指示内容が第三者の権利を侵害するものであった場合、受託者は前項の責任を負わない。 

 なお、第三者との紛争に関する責任分担については、2024年10月に経済産業省・中小企業庁が知的財産取引ガイドラインを改定し、委託者が受託者に責任を一方的に転嫁する契約が禁止されています。この点については、以下の記事も参考にしてください。  

契約の各サンプル条項や注意事項については、Collabo Tipsの自動チェックでも確認することができます。 

契約書チェック「コラボ・ティップス」とは

メリットパートナーズ法律事務所が監修する契約書チェック自動サービス “Collabo Tips”[コラボ・ティップス]は、新しいビジネスをつくりたい中小企業の法務担当者に伴走します。「オンラインで」「だれでも」「簡単・自動で」使えるのが特徴です。契約を「バトル」にせず、迅速なコラボレーションを進めるために、あなたの立場に立って助言します。無料プランでも契約書7種類をチェックできます。

コラボ・ティップス監修:メリットパートナーズ法律事務所

メリットパートナーズ法律事務所は、2011年に設立されました。著作物や発明、商標など知的財産やM&A等の企業法務を取り扱い、理系出身の弁護士や弁理士も在籍しています。「契約書をもっと身近にする」との思いで2022年、契約書チェック支援サービス“Collabo Tips”[コラボ・ティップス]を開発しました。分かりづらい契約書の全体像を「見える化」して、押さえるべきポイントが分かるようになり、企業間コラボレーションの促進を後押しします。 

  • URLをコピーしました!
目次